『ギルガメシュ叙事詩』
[物語の断片と源泉]
Epic of Gilgamesh, B.C.2000?

- 作者: 矢島文夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/02/10
- メディア: 文庫
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世界四大文明、メソポタミア文明が生み出した叙事詩。発掘された断片がつながれて物語となる。
小さい頃、考古学者になるのが夢だった。「未来の遺産」シリーズが、中学生の頃から好きで、遺跡の話にはいまでもめっぽう弱い。ギルガメシュ叙事詩は、粘土板に楔形文字で書かれている。前に、学芸員資格の授業で粘土板を触らせてもらったことがあるが、けっこう固くて実用的。楔形文字も、なかなかシャープでかっこういい。
本書には、「ギルガメシュ叙事詩」と、「イシュタルの冥界下り」の2編を収録。以下、各編の感想。
ギルガメシュ叙事詩:
ギルガメシュは古代メソポタミア、シュメールのウルク第1王朝の王様で、実在したらしい。あちこちで物語、神話に登場する、伝説的な人だ。ギルガメシュとエンキドゥの熱い男の友情、化け物退治、女神の誘惑と呪い、不死の薬をめぐる旅など、物語としてのモチーフの原型がわんさかあって、見ていて楽しい。「洪水」の章は、旧約聖書の「ノアの方舟」の原型だという。物語は脈々と受け継がれる。
イシュタルの冥界下り:
短いけれど、妙に印象に残る。イシュタルが、冥界に行って、それから戻ってくるのだけれど、道すがらに着物を全部はぎ取られて、全裸で妹の前に行ったら、妹が怒って返してくれなくなる。代わりに、男が行ったら、今度は男が怒りに触れて、イシュタルは地上に返される、という話。なんか妙にシュールなんだけど、笑える。
冥界に行って帰ってくるという話は、日本神話のイザナミのよう。
「ギルガメシュ」を訳した矢島氏の解説が丁寧で、なかなかいい仕事をしている(訳し方の模範例までついている)。「売れなさそうな本」という自覚はあったようだが、文庫化までするんだから、よかったなあと。けっこう断片であるので、物語としてきちんとしているわけではないが、いろいろな神話とのつながりがあると思うので、「物語の源泉」が気になる人はぜひ。
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