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『オクタビオ・パス詩集』オクタビオ・パス

[描かれる時間]
Octavio Pas Poética ,1935-1987.

オクタビオ・パス詩集 (世界現代詩文庫)

オクタビオ・パス詩集 (世界現代詩文庫)

  • 作者:オクタビオ パス
  • 出版社/メーカー: 土曜美術社出版販売
  • 発売日: 1997/01
  • メディア: 単行本

あれこれの小説や論文を書くのは、ある種の職業です。詩は職業ではなく、情念です。
(「大いなる日々の小さな年代記」より)


 メキシコの詩人オクタビオ・パスは、各国を旅して回る外交官だった。アメリカ、インド、パリ、日本にも来たことがあるらしい。文化論、芸術論、詩論、言葉と洞察が深いエッセイを書き、『奥の細道』を翻訳して、南米圏に紹介した。1990年にノーベル賞を受賞している。

彼は、詩を「仕事ではなく、情念」と書いている。

 パスの詩は、大地のにおいがする。南米の太陽と、強い日差しから生まれる深く濃い影、大地に横たわる石と夜。彼の詩は映像的で、時間の描き方が独特だ。まるで古い骨董品のような映写機から映し出される映像が、かたん、とコマ送りになるような、そこからなにか真実に近いものがこぼれ落ちるような、そんな詩を描く。

「鳥」
大気と光と空の静寂。
この透明な静寂のなかで
昼はくつろいでいた。
宇宙の透明さは
沈黙の透明さであった。
空の不動の光は
草の成長をやわらげていた。
ひとつの均一の光のもとの、石の間の
地上の小さな虫は石のようであった。
その一瞬時間は満足していた。
そして呆然とした静寂の中で
真昼はおのれ自身を消耗した。
そして一羽の鳥、ほっそりとした矢が歌うと、
空は傷ついた銀色の胸を震わせ、
木の葉はゆれ、
草の葉は目覚めた。
そして私は知った 死は
見知らぬ手から放たれた矢であり
そして一瞬にして私たちは死ぬのだと。

「飛びながら」 
−オレンジ−
テーブルのうえに静止した
小さな太陽、
じっと動かない正午。
何かが足りない―夜が。


−夜明け−
砂のうえに
鳥たちの筆跡。風の回想。

 描かれる世界がきれいだと思うたび、言葉の美しさはどんなものだろうと考える。この詩が原書で読めたらなあと憧憬する。スペイン語でも勉強しようかなあ。


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