ボヘミアの海岸線

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『ガラスの動物園』T.ウィリアムズ

[ガラスのユニコーン
Tennessee Williams The Glass Menagerie 1945.

ガラスの動物園 (新潮文庫)

ガラスの動物園 (新潮文庫)

"This play is memory,
Being a memory play,it is dimly lighted, it is sentimental, it is not realistic.
In memory everything seems to happen to music."


この劇は追憶の世界です。
追憶の劇だから、舞台はほの暗く、センチメンタルであって、リアリスティックではありません。
追憶の世界ではすべてが音楽に誘われて浮かんでくるように思われます。

 アメリカの劇作家が描く、ガラス細工のようにもろく繊細な世界。世界と折り合いをつけられるか、そうでないか。

 登場する3人の親子らは、みんながみんな、現実世界とうまく折り合いをつけられない人たちである。

母親アマンダは過去の栄光と子供たちの未来に、主人公トムはまだ見ぬ別世界へ、姉のローラはガラス細工の世界へと、それぞれがそれぞれの夢の世界へ逃避する。3人の家族が住む小さな空間は、じつに繊細で、もろい基盤の上に立っている。そんな舞台に、アメリカン・ドリーム的な、青年紳士が現われる…。

 おそろしく繊細な物語。まるでそこにあるのが奇跡のような結晶が、夢のようなきらめきを放ち、そしてもろく崩れ去ってしまうような、そんな雰囲気。登場人物は、青年紳士以外は地に足がまったくついていないが、それでも姉のローラという存在は群を抜いて夢のようである。

 崩れるか崩れないかという、ぎりぎりの緊張感と、それでもいつかは壊れてしまうだろうという、確信に満ちた予感があって、このテンションの張り方が非常にたくみで一気に読ませる。

 『グレート・ギャツビー』にしてもそうだが、1930年代アメリカの雰囲気は、袋小路に追い込まれた閉塞感がある。大恐慌と大戦、先行きの見えない不安の中で、夢にすがって砕けていった人びとも多かったのだろう。ユニコーンは生きにくく、ガラス細工は壊れやすい。

 ちなみに本書の訳者は、白水社のシェイクスピアでおなじみの小田島氏。冒頭で英語と対比させてみたが、やっぱり英語と日本語って、雰囲気がぜんぜん変わりますね。


recommend:
アメリカの1930年代、もしくはアメリカ戯曲。
フェツジェラルド『グレート・ギャツビー』・…1930年代アメリカ。
>ソーントン・ワイルダー『わが町』…平凡な町と宇宙。
アーサー・ミラー『セールスマンの死』…同時代の劇作家。