ボヘミアの海岸線

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『この世の王国』アレホ・カルペンティエル

[ブードゥー・マジック]
Alejo Carpentier y Valmont El Reino de este Mundo, 1949.

この世の王国 (叢書 アンデスの風)

この世の王国 (叢書 アンデスの風)


 キューバ人作家による、ハイチの独裁者小説。史実をもとにしているが、出てくるのは動物に変身する男やブードゥー魔術、なり響く太鼓の音。歴史と魔術的世界がよいバランスで混ざっているのが本書の魅力だと思う。

 黒人と白人、混血児(ムラート)が、入れかわり立ちかわりに権力の座については、首をすげ替えられていく。牡牛の首を切ってその血を城壁に塗り込めたり、賢者が太鼓鳴り響く中で祈りを捧げたり、神々の力によって戦争したりするマジカルな描写は、民間信仰パワー全開の雰囲気で、非常におもしろかった。ブードゥー教については、文化人類学で勉強した「ゾンビ」くらいしか知識がなかったのだが、その雰囲気の片鱗だけでも味わえたような気がする。

「序」の部分で、著者はいわゆるマジック・リアリズムについて語っている。

ハイチ各地で行われている魔術や中央高原に通じる赤い街道で耳にした魔術的な忠告、あるいはペトロ太鼓やラダー太鼓の音、そうしたものを見聞きしてわたしはこれこそが驚異的な現実だと思った。

 南米文学の担い手が、彼ら自身の手法と、西洋の手法をどのように見ていたかが分かる、なかなか興味深い文章だ。ボルヘスマルケスは、いきなり彼らの驚異的な世界に飲まれるので、カルペンティエルのように「序」をつけてくれる作品は、むしろ南米文学入門にはちょうどいいと思う。
 本書の題名である「この世の王国」というフレーズは、作中に何回か登場する。最後のフレーズは、軽やかに書かれているけれど、歴史的な重みを感じた。南米文学のおもしろさ、よりどりみどりの小説。呪術と驚異的な現実の世界へ旅立ってみる。


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ラテンアメリカあるいはハイチの小説。


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 もともと、『この世の王国』は、1985年にサンリオ文庫から発売されたもので、上の写真はサンリオ文庫版の表紙。『この世の王国』がサンリオ文庫に収まっているのは、なんか妙に納得できる。サンリオ文庫が発売されていた頃はただのちびまめだった。ううむ、今だったら即買いレーベルだったろうに。残念。