ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想

海外文学/世界文学/ガイブンの書評と感想ブログ。昔の名は「キリキリソテーにうってつけの日」

『族長の秋』ガルシア・マルケス

[独裁者の孤独]
Gabriel José García Márquez,El otoño del patriarca , 1975.

族長の秋 他6篇

族長の秋 他6篇

  • 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arques,鼓直,木村榮一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/04/01
  • メディア: 単行本
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権力というのは結局、いかれた連中がうろうろしているこの建物、人間そっくりな焼け死んだ馬のこの臭い、侘しいこの夜明けなのか。


 当世きってのストーリーテラー、ガルシア=マルケスによる、「独裁者小説」。

 主人公の大統領は、残虐非道を尽くす独裁者だが、小心でちっぽけな老人でもある。嫌いな人間はぶち殺し、根絶やしにし、料理にしてしまう。一方で、大統領には身に覚えのない命令が下り、映画は自分好みに造りかえられ、政権100周年の記念行事は、彼の知らぬ間に行われている。世界も他人もすべてが嘘に塗りこめられて、真実を語っているのはトイレの落書きだけ。

 大統領は孤独である。彼は人を愛したことがなく、また母をのぞいて彼を愛してくれた人もなかった。そんな独裁者の姿は、滑稽でもあり、もの悲しくもある。

 喜劇的な独裁者をめぐって「理解の不在」が重厚に縦横無尽に語られる、なんとも迫力のある作品。時間、空間、語り手、すべてが入り乱れて、文章がたえまなく流れ出る。ヒトラーにしても『20世紀少年』の「ともだち」にしても、独裁者は根の底は小心者なのかもしれない。

 読むのは骨が折れるが(なにせ改行しないのだ、恐ろしいことに)、読むと忘れられないタイプの本。



ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

めでたく文庫化された。通称「赤べこ小説」としてラテアメ愛好者のあいだで親しまれている。



G・ガルシア=マルケスの著作レビュー:


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