ボヘミアの海岸線

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『かもめのジョナサン』リチャード・バック

[誰よりも速く]
Richard Bach JONATHAN LIVINGSTON SEAGULL , 1970.

われわれ一羽一羽が、まさしく偉大なカモメの思想であり、自由という無限の思想なのだ。


 哲学を心に抱くカモメの話。大学入学したてでお金がないころ、学校の購買で立ち読みした思い出の1冊である。なんだかあまりに変な本なので、翌日にけっきょく購入してしまった。


 他のカモメとは違うということをはっきりと自覚しつつ、自分の限界に挑戦するカモメのジョナサンがいる。他者とずれていてもかまわずに、自分の道をつきすすみ、自由と誇りを求めるその姿に、世界中の若者が焦がれたらしい。
 Part3は微妙だったが、Part2までは少年漫画のようなおもしろさがある。心同士で対話したり、「おれは完全なカモメ、無限の可能性をもったカモメとしてここにある!」と叫んだり、時間や空間を飛び越えたり。特にジョナサンとサリヴァンの友情は必見である。

 天国のようなところにきて修行にはげむジョナサンが、地上にかえると言ったとき、さみしくなるな、と言ったサリヴァンに、ジョナサンが「馬鹿なことをいうな!」と言う。

……空間を克服したあかつきには、われわれにとって残るのは「ここ」だけだ。そしてもし時間を征服したとすれば、われわれの前にあるのは「いま」だけだ。そうなれば、この「ここ」と「いま」との間で、お互いに一度や二度ぐらいは顔をあわせることもできるだろう?そうは思わないか、え?」
サリヴァンは、思わず笑い出した。
「この気ちがいめ」彼は親しみをこめてそう言った。

 ここまで熱いカモメがいるとは!

 日常を生きる者を上から目線で見て、日常から脱し、他者を啓蒙してやろう的な目線が気になって、完全没入はできなかったけれど、コミックとして読めば、それなりに楽しめるかも。


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