ボヘミアの海岸線

海外文学/世界文学/ガイブンの書評と感想ブログ。昔の名は「キリキリソテーにうってつけの日」

アメリカ文学

『ロリータ』ウラジミール・ナボコフ

「だめよ」と彼女はほほえみながら言った。「だめ」「そうしたら何もかもが変わるんだが」とハンバート・ハンバートが言った。ーーウラジミール・ナボコフ『ロリータ』愛は五本足の怪物はじめて『ロリータ』を読んだのは10年前、海外文学を読みはじめてまも…

『八月の光』ウィリアム・フォークナー

彼はそれを考えて静かな驚きに打たれた――延びてゆくのだ、数知れぬ明日、よくなじんだ毎日が、延びつづいてゆくのだ、というのも、いままでにあったものとこれから来るはずのものは同じだからだ、次に来る明日とすでにあった明日とはたぶん同じものだろうか…

『ワインズバーグ・オハイオ』シャーウッド・アンダソン

自分以外のものの声が、人生には限界がある、とささやきかけてくる。自分自身と自分の将来について自信に溢れていたのが、あまり自信のない状態に変る。もしそれが想像力ゆたかな青年ならば、一つの扉が無理矢理こじあけられ、生まれてはじめて眼にする世界…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ

あなたは悪くない。もしかしたらそれは、わたしがずっと誰かに言ってあげたかった、そして誰かに言ってほしかった、たった一つの言葉なのかもしれなかった。 ミランダ・ジュライ「共同パティオ」 孤独の黒歴史 なぜわたしはわたしの人生の主人公なのに、こう…

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー|命の火を運ぶ

この物語の結末をおれにいわないでくれ。 ——コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』 命の火を運ぶ 人類絶滅まであと少し。未来は来ない。 黒こげた死体の薪に命の火をくべて、血と夜の雫でできた宝石を、頭蓋骨の鍋で煮たような小説だ。なぜ、これほど極限…

『タイガーズ・ワイフ』テア・オブレヒト

祖父はようやく口を開いた。「分かるだろう、こういう瞬間があるんだ」 「どんな瞬間?」 「誰にも話さずに胸にしまっておく瞬間だよ」 ——テア・オブレヒト『タイガーズ・ワイフ』 トラの嫁と、不死身の男 まずはわたしの話からはじめよう。曾祖父が曾祖母と…

『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』カート・ヴォネガット

いったいぜんたい、人間はなんのためにいるんだろう? カート・ヴォネガット『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』 絶望からくる博愛 人は誰もが、小さな器を心に抱えてうまれてくる。うまれてまもなく、彼らをこの世に送り出した男女が水をそそぎ…

『V.』トマス・ピンチョン

「あなた、経験から学び取ったことないの?」 「ない、はっきり言ってひとつもない」——トマス・ピンチョン『V.』 世界の歴史は女 奇っ怪である。「あいつ、俺のともだちなんだよ」「私、あの人とつきあってるの」と飲んだくれの男女がひっきりなしにやってき…

『ボディ・アーティスト』ドン・デリーロ

計画を立てることで、時間を組織化する、自分が再び生きられるようになるまで。——ドン・デリーロ『ボディ・アーティスト』 放心と回復 時々、まっ白い部屋にひとり立ちつくしているような感覚に陥ることがある。心と体がうまくつながっていない状態、自身の…

『ウェイクフィールド』ナサニエル・ホーソーン|宇宙の遭難者

こうしてウェイクフィールドは、生きている世界から姿を消し、死者の仲間にも入れてもらえぬ境遇となった。 常ならざる者の存在はいつだって、記録と記憶に強烈な爪痕を残していくものだ。例えば、メルヴィルが生み出した奇妙奇天烈な男『バートルビー』。そ…

『代書人バートルビー』ハーマン・メルヴィル

徐々にわたしは、代書人に関してわたしにふりかかったこれらの災難が、すべて悠久の過去から予定されていた運命で、バートルビーはわたしのごときただの人間風情には測り知れぬ全知の神の不思議な何かの思し召しから、実はわたしのところに割り当てられたの…

『オスカー・ワオの短くも凄まじい人生』ジュノ・ディアス

髪を切って、メガネを外して、運動しなさい。エロ本を捨てなさい。あれは最悪よ。ママも嫌がってるし、あんなもの見てたら彼女なんてできない。——ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短くも凄まじい人生』 君はヒーロー 百貫デブで重度のオタク、年齢=彼女…

『響きと怒り』ウィリアム・フォークナー

[臓腑のような独白] William Cuthbert Faulkner The Sound and Fury,1929. 響きと怒り (上) (岩波文庫)作者: フォークナー,Faulkner,平石貴樹,新納卓也出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2007/01/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 24回この商品を含む…

『オラクル・ナイト』ポール・オースター

[啓示は手の中に] Paul Auster The Oracle Night,2003.オラクル・ナイト作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/09メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 50回この商品を含むブログ (42件) を見る とにかくあのノ…

『短篇コレクションI』池澤夏樹編

[世界という名のタペストリ] Natsuki Ikezawa edited Colleted Stories I,2010.短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)作者: コルタサル他出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2010/07/12メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 50回こ…

『白鯨』ハーマン・メルヴィル|世界は鯨でできている

あのゆるぎない塔、あれはエイハブだ。あの火山、あれもエイハブだ。あの雄々しい、不とう不屈の、かちどきの声をあげる雄鶏、あれもエイハブだ。何もかもがエイハブだ。 「おお、エイハブ!」スターバックがさけんだ。「いまからでも遅くはありません。ご覧…

『わが町』ソーントン・ワイルダー

[平凡な日々] Thornton Wilder Owr Town,1938.ソーントン・ワイルダー〈1〉わが町 (ハヤカワ演劇文庫)作者: ソーントンワイルダー,Thornton Wilder,鳴海四郎出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2007/05/24メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 44回この商品を含…

『ブラッド・メリディアン』コーマック・マッカーシー|暴力と血が沸騰する狂信の荒野

[戦争がなければ人は土くれ] Cormac McCarthy Blood Meredian or the Evening Redness in the West,1985. ブラッド・メリディアン作者: コーマック・マッカーシー,黒原敏行出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2009/12/18メディア: ハードカバー購入: 8人 クリ…

『デス博士の島そのほかの物語』ジーン・ウルフ

[綺想きらめく] Gene Rodman Wolfe The Island of Doctor Death and Other Stories ,1970.デス博士の島その他の物語 (未来の文学)作者: ジーンウルフ,Gene Wolfe,浅倉久志,柳下毅一郎,伊藤典夫出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2006/02/01メディア: 単行…

『競売ナンバー49の叫び』トマス・ピンチョン

[陰謀か幻想か?] Thomas Pynchon The Crying of LOT 49,1966.競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)作者: トマス・ピンチョン,志村正雄出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2010/04/07メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 63回この商品を含むブログ (46件) を見…

『一角獣・多角獣』シオドア・スタージョン

[奇妙な味わい] Theodore Sturgeon E Pluribus Unicorn,1953.一角獣・多角獣 (異色作家短篇集)作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,小笠原豊樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/11メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 70回この商品を含むブ…

『アブサロム、アブサロム!』ウィリアム・フォークナー

[なぜ、なぜ、なぜ] William Cuthbert Faulkner Absalom, Absalom!,1936 アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)作者: ウィリアムフォークナー,篠田一士出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2008/07/11メディア: 単行本購入: 2人 …

『黒い時計の旅』スティーブ・エリクソン

[交錯する20世紀たち] Stive Erickson Tours of the Black Clock,1989.黒い時計の旅 (白水uブックス)作者: スティーヴエリクソン,Steve Erickson,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 2005/08/01メディア: 単行本購入: 9人 クリック: 115回この商品を含…

『日はまた昇る』アーネスト・ヘミングウェイ

[それでいい] Ernest Miller Hemingway The Sun Also Rises, 1926.日はまた昇る (新潮文庫)作者: アーネストヘミングウェイ,Ernest Hemingway,高見浩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/06/28メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 31回この商品を含むブロ…

『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア

[そういうものだ] Kurt Vonnegut Slaughterhouse-Five, or The Children's Crusade, 1969.スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,伊藤典夫出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1978/12…

『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーブン・ミルハウザー

[ぜんまい仕掛けの工芸品] Steven Millhauser:In the Penny Arcade,1990.イン・ザ・ペニー・アーケード (白水Uブックス―海外小説の誘惑)作者: スティーヴンミルハウザー,Steven Millhauser,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 1998/08メディア: 単行本…

『僕はマゼランと旅した』スチュアート・ダイベック

[紡げ追憶] Stuart Dybek I Saied with Magellan, 2003. 僕はマゼランと旅した作者: スチュアート・ダイベック,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 2006/02/28メディア: 単行本 クリック: 16回この商品を含むブログ (36件) を見る ダイベックが根の底か…

『トゥルー・ストーリーズ』ポール・オースター

[嘘のような本当] Paul Auster True Stories, 2004.トゥルー・ストーリーズ作者: ポール・オースター,Paul Auster,柴田元幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2004/02/26メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (62件) を見るトゥルー・ストーリ…

『マオII』ドン・デリーロ

[氾濫するコピー] Don Delillo MAOII, 1991.マオ2作者: ドンデリーロ,Don Delillo,渡辺克昭出版社/メーカー: 本の友社発売日: 2000/05メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (6件) を見る アメリカのアーティスト、アンディ・ウォーホールは、…

『セールスマンの死』アーサー・ミラー

[夢破れて袋小路] Arthur Miller Death of a Salesman , 1949.アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫)作者: アーサー・ミラー,倉橋健出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2006/09/20メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 47回この商品を含む…