ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『さりながら』フィリップ・フォレスト

一茶はすでに世界についてすべてを知っていた。その悪意、その無尽蔵の美しさ。——フィリップ・フォレスト 喪失の水盤 この切実さはなにごとだろう。フォレストの文章を読みすすめるごと、そう思わずにはいられない。 日本の作家、俳句、写真家、都市について…

割り切れない愛を描いた海外文学・短編リスト

「安心できる人とつきあいたいんですよね」と、隣の青年はつぶやいた。相手が自分を好いていて、裏切らないという確信がなければ誰かとつきあう意味がないと。だが、はたして人の心はそれほど単純だろうか? もうこれっきりだと思ってメールをしながらこのマ…

『彫刻家の娘』トーベ・ヤンソン

仲間というものは、つぎの日にもういちど言う価値があるような気のきいた話はしない。パーティーで大事な話をするべきではないことくらいはわきまえている。——トーベ・ヤンソン『彫刻家の娘』 茂みの奥から 「十歳の少年というものは、自分の膝を事細かによ…

『チェスの話 ツヴァイク短篇選』シュテファン・ツヴァイク

あらゆる種類のモノマニア的な、ただひとつの観念に凝り固まってしまった人間は、これまでずっと私の興味をそそってきた。人間は限定されればされるほど一方では無限のものに近づくからである。――シュテファン・ツヴァイク「チェスの話」 ささやかで重大な災…

『無慈悲な昼食』エベリオ・ロセーロ

“彼らは僕を昼食と見なしている”——エベリオ・ロセーロ『無慈悲な昼食』 獣になる ふしぎなものだ、「慈悲の昼食」という名がこれほど無慈悲に響くとは。 原題は"Los almuerzos"、「昼食」というとおり、木曜日の正午12時から金曜日までの12時までの1日を描く…