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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

「クジラスレイヤー ピークォド号炎上」:『白鯨』で『ニンジャスレイヤー』

文体演習 気ままな本リスト ネタ・パロディ

登場人物

  • エイハブ:白鯨モービィ・ディックに片足を食われたセンチョ「エイハブ」に謎のホゲイソウル「ホゲイ・ピークォド」が憑依。ホゲイが抱えるクジラ殺戮渇望がエイハブの復讐心と重なり合い、恐るべきクジラ殺しのセンチョ「クジラスレイヤー」を誕生せしめた。エイハブとホゲイの共振が深まれば深まるほどにゲボクのモリウチパワーが強まり、理性を完全にホゲイに明け渡せば、船を沈没させるほどの力を放つ。
  • スターバック:イットー・コーカイ=シ。冷静沈着で、エイハブに忠実でありながら、苦言を呈することもいとわない。まことのブシドー。エイハブの右腕とも呼べる存在。
  • スタッブ:ニトー・コーカイ=シ。コッド岬生まれで、呑気アトモスフィアを身にまとうヒョットコ。
  • フラスク:サントー・コーカイ=シ。実際あわれなバター抜き男。
  • タシュテーゴ:スタッブ配下のモリウチ・アタッカー。奥ゆかしいインディアン。
  • ダグー:フラスク配下のモリウチ・アタッカー。黒人で、身長は6フィート5インチ。スゴイタカイ。
  • クイークェグ:スターバック配下のモリウチ・アタッカー。カニバル・クイダオレの生まれだが、彼のピュアソウルを見抜いたイシュメールと、ユウジョウを結んだ。ユウジョウ!
  • イシュメール:語り手=サン。

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1


 時刻はまさにウシミツ・アワー。海獣が跋扈する闇の時刻であった。捕鯨船ピークォド号は、クジラが放つ独特のアトモスフィアを追い、スゴイヒロイ・オーシャンをひた進んでいた。

 「マスト・ヘッドの見張り、配置につけ! 全員集合!」号令がかかる。

 「何か見えるか?」エイハブは空をあおいで、問いかける。

 「見えません、センチョ、何も見えません!」

 「トガンスル(上段横帆)!——スタンスル(補助帆)! 上も下も、右も左も、みんな張れ!」

 言うが早いかエイハブはメイン・ロイヤル・マスト・ヘッドに上り、空漠たる水平線に目をやる。そして、カモメのような叫び声を発したーー「潮吹きだ!——潮吹きだ! フジヤマのようなこぶが見えるぞ! モービィ・ディックだ!」
 
 「アイエエエエ! クジラ!? クジラナンデ!?」ノリクミ・セーラーたちのあいだに動揺が走る! 一方、カチグミ・コーカイ=シとモリウチ・アタッカーたちは、エイハブの命令を待つまでもなくすでに動き出している。

 「ボートを下ろせ! スタンバイ! スタンバイ!」「ヨロコンデー!」



 すべてのボートが下ろされた。先頭をきったのはエイハブのボート。ボートは波をけたてて矢のように風下めがけて突進した。カラダニキヲツケテネ!

 音もなく海面をゆくオウム貝のように、ボートは軽い舳先で波をかきわけて猛烈なスピードで疾走したものの、なかなか仇敵との距離はちぢまなかった。その距離はタタミ500枚オーバー。

 静かであった。夜明けの光の中で、腕まくりしたタシュテーゴのミンチョ・フォントの入れ墨が浮かび上がる。ダグーの全身には油断ならないカラテがみなぎっている。

 彼らは三十人ではなく、ひとりであった。帆桁という帆桁は人間という果実をたわわにみのらせて運命の収穫の日をまっていた。ああ! 何ゆえに彼らはみずからの破滅ともなりかねないものを求めて、この限りない青海原をゆこうとするのか!

 そのとき突然、あたりの海がゆっくりと大きな渦をえがきながら盛り上がり、かと思うとこんどはみるみる水の柱となって立ち上がった。コワイ! モービィ・ディックが突如としてその全容をあらわにしたのだ!

 「ドーモ、モービィ・ディック=サン。エイハブです」「ドーモ、モービィ・ディック=サン。ダグーです」

 噴水の束のように燦然ときらめき、雪片のように散華する30フィートもの水しぶきに、エイハブとモリウチ・アタッカーたちは、聖書時代からのサホーに基づいた奥ゆかしいオジギをする。だが、堕天使たちの大集団にとりつかれたような形相のクジラは、絶望めいた雄叫びと海水の怒濤でもって返す!

 「アイサツもわきまえぬとは、おごり高ぶる白き悪魔よ」エイハブはうっそりと笑う。「……クジラ殺すべし」

 アンブッシュ*1のワザマエをトクイとするタシュテーゴは「キヨミズ!!」と叫んで船からタカトビする。「オカクゴ! イヤーッ!!」モリウチ・アタッカーによるモリの投擲! 強靭なクジラの皮膚がモリの猛攻をはじき返す! しかし、タツジンのワザマエを持つモリウチ・アタッカーたちにとっては、この事態は予想の範囲内、いわゆるチャメシ・インシデントである。「モリはたくさん撃つと実際当たりやすい」というコトワザがある!

 「イヤーッ!!」「アバーッ!!」「イヤーッ!!」「アバーッ!!」「イヤーッ!!」「アバーッ!!」

 百発のモリで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。一千発のモリを投げるのだ! 何本かのモリがクジラに命中! 「グワーッ!!!」天をつんざくような咆哮とともに、怒り狂ったクジラの顎門が不運なボートをとらえる。「サヨナラ!」ハイクを詠むひまもなく、ゲボク・セーラーを乗せたボートはあわれ爆発四散した。ナムアミダブツ!

 白鯨は、あごを開いてボートの群れめがけて突進を開始し、尾を左右に打ちすえ、あたりはたちまち凄惨な地獄アトモスフィアをかもしだした。クジラは、どのボートから打ち込まれるモリだろうとおかまいなく、ひたすらボートを転覆させることに執念を燃やしているようだった。

 モリウチ・アタッカーたちのボートは、百戦錬磨の軍馬さながら、たくみな操縦ぶりを発揮して、ときにはタタミ1枚のあやういところながら、しばらくはクジラの攻撃をかわしていたが、その間、エイハブのこの世のものならぬ雄たけびは、他のすべての叫喚を圧倒していた。

 だが、戦況はジリー・プアー(徐々に不利)に陥っていることに、主船に残ったスターバックは気づいていた。モリを打たれたクジラは左右に激しく動き、モスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイア*2のごとく、ボートは自分たちが打ち込んだモリの方へ引き寄せられていく。フシギ!

 懸命に綱を操っていたコーカイ=シたちだが、ここでまさかのコウボウ・エラーズ*3!「グワーッ!!」引きずられたボートは、いともたやすくクジラの体当たりによって砕かれる! 実際ボートを砕くことなど、クジラにとってアカチャンの手をにぎりつぶすに等しい。コーカイ=シたちは水漏れを防ぐために、モリをハンマーに持ちかえて奮闘する。周囲には血の匂いをかぎつけたサメの群れとボートの破片、そして投げ出されたノリクミ・セーラーたちの体が浮かんでいる。まるでツキジ!

 いまやボートは、エイハブが乗るものしか残っていなかった。エイハブは、こわれたボートから流れてくるハンマーを打つ音を聞きつづけていたが、それとはまったくちがったハンマーがおのれの心臓に打ち込まれるような感じにも襲われていた。

 「打ち込め、打ち込め、おまえの釘をな、おお、波よ! だが波よ、いくら打っても、打ちつける蓋はないぞ。あいにく、わしは棺桶にも柩車にも縁はないのだ——はっ! はっ!」

 「おお、エイハブ=サン!」スターバックがさけんだ。「いまからでも遅くはありません。ご覧ください! モービィ・ディック=サンはあなたを求めてはいません。やつを狂ったように求めているのは、あなた、あなたなのです!」

 「ポエット!」エイハブは、体を弓なりにそらし、両腕を高々とかかげて狙いを定め、火のように燃えるモリを、それよりもなお激烈な呪いをこめて、にっくきクジラに打ち込んだ。「ハイクを詠め!」その鋼鉄と呪いがクジラの体に、まるで沼地にでも刺さったかのようにズブリと根元まで刺さると、モービィ・ディックは痙攣したように脇腹でボートの舳先を打ちすえ、すべての船を転覆させにかかった。

 「アイエエエエ! クジラ! クジラが!!」

 いまや、ほとんどの船員は、ロウソク・ビフォア・ザ・ウィンド*4の蒼白メンポで、ただ呆然とクジラを見つめていた。クジラはその予定説めいた頭をあやしく左右にふりながら、その全面に半円形の幅広い泡の帯を屏風のように立てて驀進してくる。まるで天罰覿面、復讐迅速、悪意堅牢といったコトワザの権化であった。もはや生身の人間になすすべはなかった。多くの者たちがみずからの過去を無意識のうちに思い出していた。死期を迎えた者が体験するソーマト・リコール現象である。

 「グワーッ!!!」激しい衝撃に主船も人もよろめいた。破損箇所から流れ込む水の音はカレサンスイを下る渓流のようにとどろいた。

 「サヨナラ!」「オタッシャデー!」

 いまや幾重にも同心円を描く渦は、その乗り組みも、漂流するオールも、ヤリの柄も、その他のことごとくも、生ある者も生なき者も区別なく、ただグルグルと旋回する大渦のなかに巻き込み、やがてピークォド号を、そのあらゆる痕跡もろとも、視界からかきけした。どこからともなく飛来した小さな海鳥たちが、まだ口をひらく深淵のうえをけたたましく鳴きながら飛んでいた。その深淵の斜面のけわしい縁に不機嫌そうな白波がひとつ打ちあたると、たちまちすべてが崩壊して、大いなる海の経帷子は、五千年前と変わらなくうねりつづけた。



『白鯨』は実際おもしろい

 「両作品のテンションがなにやら似ている」と、スフレを食べているときにブッダのオツゲが降りてきました。

「おお、見よ! なんということか! コッカトリスの両腕のあるべきところには、生きた大蛇が生えているではないか! コワイ!
ーー『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1』「ペイン・オブ・サーベント」

ああ! 何ゆえに彼らはみずからの破滅ともなりかねないものを求めて、この限りない青海原をゆこうとするのか!

——『白鯨』「追跡――第2日」

 『白鯨』そのものがテンションの高い文体なので(特に八木訳はいろいろすごい)、そのまま使ったところも少なくありません(「まるで天罰覿面、復讐迅速、悪意堅牢~」の文章など)。というか、ほとんどが『白鯨』と『ニンジャスレイヤー』の地の文=サンを下地にしています。

 えんえんと続く学問・雑学をとりまぜた「鯨語り」にとまどい、途中で難破する人が多いようだけど、「世界は鯨だよね」と言い切るその世界観は比類ないものだと思います。今回省いた、エイハブのいまわの際のハイクはすばらしいので、読んでみるといいと思うよ。ポエット!


感想。

ガイブンパロディもの。脳みそが溶けるかと思いました。


『白鯨』書籍リスト

岩波文庫版:八木敏雄訳(今回、使ったもの)

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

ロックウェル・ケント=サンの版画と、「田子作ダンディ」「バター抜き男」など、忍殺語めいた訳文が魅力。原文の重厚な雰囲気とはおそらくまったく違っているのだろうが、爆笑度でいうならば、翻訳小説の中でも随一の出来だろう。『白鯨』でこんなに爆笑できるとは思っていなかった。
白鯨 中 (岩波文庫)

白鯨 中 (岩波文庫)

ほぼ鯨についてしか語らない、物語を求める人間にとっては苦難の巻。だが、『白鯨』を『白鯨』たらしめている巻でもある。鯨の白さについての考察は度肝を抜かれた。実際白い。
白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)

白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)

白鯨との戦いを収録する。物語もさることながら、名台詞の嵐が巻き起こる。鯨に取り憑かれたエイハブと、苦悩しながらも従うスターバックのやりとりがすばらしい。エイハブの独白には、線をどれだけひいたことか!

新潮文庫版:田中西二郎訳

白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))

白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))

白鯨 (下) (新潮文庫 (メ-2-2))

白鯨 (下) (新潮文庫 (メ-2-2))

有名な書き出し"Call me Ishmael."を「まかりいでたのはイシュメールと申す風来坊だ」と訳す。八木訳では「わたしを『イシュメール』と呼んでもらおう」。海の男どもの荒くれムードを楽しみたい人向け。60年前の訳なので、個人的にはやはりちょっと古いかなあ。

講談社文芸文庫版:千石英世

読み切ったわけではないので、限定的な紹介になるが、さまざまな翻訳上の工夫がこらされていて、読みやすい。柴田元幸=サンは千石訳を「今年の翻訳界最大の収穫」と呼んでいる(いつものことかもしれないが)。 鴻巣友季子=サンも褒めていたし、訳者の評判が高いという印象。

ニンジャスレイヤー

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1

アメリカで人気のサイバーパンクニンジャ活劇小説を、翻訳チームがTwitterで翻訳している。英語版原作は販売中止のままだけど、いったいいつになったら、作者であるフィリップ=サンの家のプリンタはなおるのだろうか。
ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上2

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上2

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上3

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上3

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上4

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上4

Links

*1:「待ち伏せ」「不意打ち」などの意味を持つコトダマ。

*2:「飛んで火にいる夏の虫」の意か。

*3:「弘法も筆の誤り」の意。

*4:「風前の灯」の意。