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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『ユビュ王』アルフレッド・ジャリ

フランス文学 ☆☆☆

ユビュ親父
 そうかも知れん。だがわしは政府を変えちまったし、今後はすべての税金を二倍にふやし、指定された者はとくに三倍の税金を支払うよう、官報で通告したのじゃ。かかる方法によって、わしは速やかに大金持ちとなり、かくしてありとあらゆる者を皆殺しにしたあげく、おさらばしようと思っておる。

——アルフレッド・ジャリ『ユビュ王』

くそったれ!

 先日見にいったシュルレアリスム展マックス・エルンスト「ユビュ皇帝」を見た。赤い体にコマのような足、「この奇怪な王は何者だ」と興味がわいて読んでみた。

 1896年、パリでの『ユビュ王』初演は、それは大スキャンダルだったらしい。主人公ユビュ親父による第一声「MERDRE!(くそったれ!)」に劇場は蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、初演後の新聞には賛否両論(主に批判が多かったが)が飛び交ったという。

 だが、結果として、本作によってジャリの名声は高まった。“法王”アンドレ・ブルトンを筆頭としたシュルレアリストたちに『ユビュ王』は熱烈に受け入れられ、ムンクやルオー、エルンストなど名だたる画家たちがくそったれなユビュ親父の肖像を残している。

ユビュ王 (1970年)

ユビュ王 (1970年)

 品位の欠片もないユビュ親父が、ユビュおっ母にそそのかれて善良な王を殺して王冠を簒奪、略奪に虐殺、法外な税金のふっかけなど、血も凍る独裁をおこなうというストーリーである。

 最初は『マクベス』の焼き直しか? と思ったが、ユビュ王にはマクベスのような葛藤や恐れといった人間らしさは見られない。あるのは突き抜けた「俺さま中心主義」ばかり、とにかく下ネタと暴言の嵐、金銭欲と食欲にまみれている。あげく、武力も根性もないものだから、あっという間に反逆されて、ほうほうのていで取るものもとりあえずに壊走する。人間のダメな部分をかき集めて、三角帽子をかぶせて体臭を思いっきりくさくして、デブのどてっ腹にこね上げたら、ユビュ王っぽいものができあがるだろう。


  とにかく「どてっ腹」「くそったれ」で、おならに火をつけるとか、ムッシューツレション&タチションのコンビとか、すがすがしいほどに下世話である。

 どうしようもないユビュ親父なのに、妙に言葉も動きもユーモラスなものだから、なかなか笑えて楽しめた。とはいえ、全体的にどたばたしていたという印象が強く、劇そのものよりページの合間にあるさまざまなユビュ王像の方が、私としては興味深かった。

 これだけ画家たちに筆をとらせるぐらいなのだから、ユビュ王はさぞかしビジュアルが強烈なのだろう。観劇した方が、もしかしたら「ユビュ王」はおもしろいのかもしれない。

Alfred Jarry Ubu Roi,1888.

recommend:
アンドレ・ブルトンシュルレアリスム宣言』…ブルトンはジャリを「アプサント酒においてシュルレアリスト」と呼んだ。
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