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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『島暮らしの記録』トーベ・ヤンソン

北欧文学 ☆☆☆☆☆

[静寂の日々]
Tove Marika Jansson Anteckningar fran en o ,1993.

島暮らしの記録

島暮らしの記録

 まあ、人間には失策(へま)がつきものだ。だから、なんだというのか。


 トーベ・ヤンソンは、その人生の大半を島(ハル)で過ごした。島、と言っても、フィンランドの島々は日本のそれとは雰囲気がだいぶ異なる。海面上に岩礁がでこぼこと頭をのぞかせ、見渡す限り海は薄い青灰色、風雨は人の営みなどおかまいなしに気ままに振る舞う、そんな土地である。だからこそ、トーベ・ヤンソンと相棒トゥーリッキ、母親のハムは、孤島クルーヴハルに住もうと考えた。


 芸術家の女性たちが3人、それに猫が1匹。たまに手伝いをしてくれる気のいいおじさんたち。登場人物はたったこれだけだ。日記形式、ときに散文形式でつづられる『島暮らしの記録』では、人同士の交流よりもむしろ自然との会話が多い。せっかく作った橋が雨に流されたり、嵐のおかげで足止めを食らったり、魚を取って料理したり、小屋を淡々と作り続けたりする。例えば、ある1日の記録。とてもシンプルで完成されている。

 11月8日
 気温7度、寒い。正午に資材を積みこみ、午後2時にこれを運び出す。まだかなり風は強いが、明朝に向けて凪を待つ。小屋の居心地はすごくいい。島に来た時の気温は1度。午後11時、室内は25度。みんなでいろんな歌をうたった。そして寝た。

 11月10日
 いつものように出かけ、最後の壁に釘を打つ。今日はいつもより早く終わる。かなりこたえる気候だ。詩人フレディング好みの夜。


 この本はどこまでも静かだ。淡々とした言葉の群れは、釘を打つ音やボートのエンジン音をすっかり吸収してしまう。トーベとトゥーリッキ、芸術家で親友、そして恋人同士だった2人は、作品を作るうちに無言になっていく。会話の代わりに、彼女たちは沈黙を共有する。

 フィンランド人を恋人に持つ友人から聞いたエピソードがいくつかあって、なかなか興味深かった。フィンランド人はサウナが大好き。ボートは命の次の次くらいに大事。

 そういえば、わたしの友人も、静かで水みたいな雰囲気を持っている。いずれ、自然の中で犬を飼いながら暮らしたいと言っていた。北欧に惹かれる人間は、何かしら魂の共通点を持っているのかもしれない。今度会ったときには、この本をプレゼントしてみようかと思う。好きな本こそ、人へ譲るにふさわしい。


トーベ・ヤンソンの作品レビュー:
トーベ・ヤンソンコレクション
『トーベ・ヤンソン短篇集』
『少女ソフィアの夏』


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