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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『縛り首の丘』エッサ・デ・ケイロース

[死体、大活躍]
José Maria de Eça de Queiroz O Mandarim / O Defunto,1902.

縛り首の丘 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

縛り首の丘 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)


 世の中にはあまた死体があるが、これほど人の恋路に協力的な死体を見たことがない。
 ポルトガルの小説家が描く、世にも珍妙な中世ロマンス・死体風。……いや、これはロマンスなのだろうか?


 物語の舞台はカスティリヤ、若き騎士ドン・ルイ・デ・カルデーナス卿が、とある夫人に熱烈な恋をした。しかし、夫である貴族はドン・ルイに激しい嫉妬心を抱き、彼を亡き者にしようと暗殺の罠を張りめぐらせる。罠と知らず、ドン・ルイは「愛するあの女性からラブレターが来た!」と喜び勇んで待ち合わせの場所へ馬を走らせる。そんな旅途中、恋する男に声をかける者があった。「俺を連れていけ」。振り返るとそこには縛り首にあった男の死体がぶら下がっていた……。


 どシュールである。うきうきして恋人のもとへ行こうとしたとき、朽ちかけた真っ黒な死体に「お待ちなさい」と声をかけられる。100年の恋も冷める瞬間であろう。

「お前は死んでいるのか、それとも生きているのか」
「さて、どうだか……。そもそも生とか死とかいうものは、いったいどんなものやら……」

 質問するポイントはそこではないし、答える方の真面目さも根本的に間違っている。しかし、どうやらこの死体は神の思し召しによってドン・ルイの恋路に協力しなければならない運命にあるらしい。「神の意志なら……」とドン・ルイはいやいやながら死体を馬に乗せて、夫人が待つ屋敷へと訪れる。ところがこの縛り首の死体はすこぶる有能で、逸る気持ちを抑えきれないドン・ルイを戒めながら、「私を信じろ」といって彼の代わりに銃弾をその身に受ける。


 「夫人への横恋慕と夫の嫉妬」というべたべたな二流ロマンスと、誰よりも活躍する男前な(でも腐っている)死体という、組み合わせが珍妙すぎる。ケーキの上にホタルイカを載せて食べているような感じだ。おそらく、永遠にマリアージュの瞬間はこないだろう。

 最後、役目を終えた死体が「もう一度吊るしてください」と願うシーンでは、若き騎士と死体の変な友情がよく分からない感慨を誘う。「この私が、お前を吊るすだと!」、騎士は憤る。その順応力があれば、きっとどこの世界でもやっていけると思う。

 ああ、変な話だった。


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