漫画読みにオススメしたい海外文学
以前、Twitterで「漫画読みにオススメしたい海外文学」についてつぶやいた。いろいろな人からコメントやおすすめをもらったので、今回ここでまるっとまとめてみる。
「海外文学読みにおすすめできる漫画」でもよかったのだけれど、逆にした。理由は、「圧倒的に漫画読みの方が数が多いから」。でも、理由は「数の多さ」だけではない。「自分は漫画が好きだ」と自覚している漫画読みは、あるていど「異なる価値観」への許容度が高いと思う。「オタクってのはね、空から異世界の人が降ってきても、事実を受け止める準備ができているんだよ」という妹(当然オタクだ)の言葉を聞いて以来の仮説である。
漫画読みの人が「日常とは異なるおもしろさ」を求めているのだとしたら、「海外文学にはそれがあるからどうぞ」と勧められる。じいさんが孫の頭をかち割りにやってきたり、海からバラのにおいが漂ってきたり、ワニに食われたのに生きていたり、びっくりするほど糞尿まみれの町があったり、酒を飲むしか才能がないのでとりあえず酒を飲んでいたりする。そんな馬鹿な! なんて堅い常識を軽々と飛び越える。しかも、「日本人」という枠を乗り越えて、とびきり愉快なものを見せてくれる。
正直、海外文学読みはとても楽しい。退屈や平凡な日常とは無縁だ。だから、おもしろい物語を貪欲に求める漫画読みは、きっと海外文学も楽しんでくれるのではないかと思う。これは、仮説というよりは期待かもしれないけれど。
というわけで今回は「雰囲気やテーマが似ている漫画&海外文学」のコンビを紹介する。好きな漫画の雰囲気から海外文学を選んで読んでもらいたい。
テンションの高さに狂え! 人間賛歌
- 作者: 荒木飛呂彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1987/08/10
- メディア: コミック
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- 作者: フョードル・ミハイロヴィチドストエフスキー,亀山郁夫
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/10/09
- メディア: 文庫
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諸君、私は戦争が好きだ
- 作者: 平野耕太
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 1998/09/01
- メディア: コミック
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- 作者: コーマック・マッカーシー,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/12/18
- メディア: ハードカバー
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「化け物じみた戦争を愛する少佐」×「化け物じみた殺戮を愛する判事」。どちらも人の死を1ミリほども悲しまないところが似ている。自身を「どうしようもないほど人間」と位置づけたちびデブ少佐(ナチスドイツ)と、「戦争がなければ人などただの土くれ」と言い切ったのっぽハゲの判事(開拓時代のアメリカ)。どちらも超越しきった化け物たちで、絶対に半径100km以内には近寄りたくない。⇒『ブラッド・メリディアン』の感想
- 作者: アラン・ムーア,エディ・キャンベル,柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2009/10/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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有史以来の思い出を抱えて
- 作者: 鶴田謙二,梶尾真治
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2008/05/20
- メディア: コミック
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- 作者: イタロ・カルヴィーノ,米川良夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/07/22
- メディア: 文庫
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「地球が生まれてからの記憶を継承する少女」×「ビッグバン以来の物語を語る老人」。「noname」、名前のないエマノンと、読み方が不明なQfwfq氏はいいコンビだと思う(表紙の雰囲気が似ているのは気のせいだろうか)。ユーモアとロマン、そして少しの切なさ。思い出はいつだって美しい。
きっとどこかにある、水香り立つ東方の国
- 作者: 漆原友紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/11/20
- メディア: コミック
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- 作者: マルグリット・ユルスナール,多田智満子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1984/12/01
- メディア: 単行本
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「日本のような国で起きた蟲にまつわる民話」×「どこかにありそうな東方の国の短編」。どちらも、青く湿った空気を描くのが抜群にうまい。『東方綺譚』の作者はフランス人なので、「マルコ・ポーロ」的な視線を楽しむのもよい。特に「老絵師の行方」のラストシーンの美しさは神がかっている。とても短い作品なので、これだけでもまずは読んでみてほしい ⇒『東方綺譚』の感想
ああ、古きよきイングランド!
- 作者: 森薫
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2002/08/26
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- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
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「イギリスのメイド」×「イギリスの執事」。イギリスといえばメイド、メイドといえば執事、執事といえばイギリス。『エマ』の舞台は1890年代、『日の名残り』は第1次世界大戦以降。時期は微妙にずれているが、だからこそ「変化の渦に巻き込まれたイギリス」の流れを追えておもしろい。執事のうさんくさいしゃべり方が最高によい。
本当の秘密は、永遠に秘密のまま
- 作者: 五十嵐大介
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2004/04/30
- メディア: コミック
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- 作者: J.L.ボルヘス,鼓直
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1993/11/16
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「感性で世界の秘密を受け止める魔女」×「論理で無限を構築する魔術師」。というか、作者は2人とも魔術師なんじゃないのか(これも表紙が似ているのは気のせい?)。視線が完全に人間離れしているお2人に惚れこんだら最後、きっと魂が迷子になる。でもそれでいい。これを読めない「理解可能」な世界にいる方がよっぽど不幸だ。 ⇒ボルヘス『伝奇集』の感想
初恋は実るか? 星は守れるか?
- 作者: 日渡早紀
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 1998/03/01
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- 作者: マイクル・コーニイ,山岸真
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/07/04
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「青春恋愛SF」×2。poakoさんより推薦いただいた(やっぱり表紙が以下略)。キーワードは「星」「少年少女」「初恋」「戦争」。少年少女の初恋物語が、戦争と星の存亡問題につながっていく。君の手を取りたい、ただそれだけなのに。
「孤島」というシュレディンガーの猫箱
うみねこのなく頃に Episode1:Legend of the golden witch 1 (ガンガンコミックス)
- 作者: 竜騎士07,夏海ケイ
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2008/06/21
- メディア: コミック
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- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,清水俊二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 文庫
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「孤島ミステリ」×「信頼できない語り手」を組み合わせた2冊。閉じられた空間で、いったい誰が「正しさ」を証明できるのか? 孤島の中のことは誰も知らない。分かるはずがない。これはシュレディンガーの猫箱ではないのか? こちらもpoakoさんの推薦。
そうして少年は心を失った
- 作者: 浦沢直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/06
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- 作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
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「心を失い、怪物となった少年」×「自分を殺す練習をする双子」。master6yさんより推薦いただいた。どちらも「戦争、もしくは犯罪で心を失った双子」の物語。お互いを区別せず「ぼくら」と読んでいた悪童たちが「2人」に分裂する瞬間の衝撃といったら! ⇒『悪童日記』の感想
他にもたくさんおすすめいただいた。以下紹介する組み合わせは、私が読んでいない本があるため、詳細コメントは控えめ。
注を読む幸せ
- 作者: 士郎正宗
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/10/05
- メディア: コミック
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- 作者: ニコルソンベイカー,Nicholson Baker,岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1997/10/01
- メディア: 新書
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不条理な宇宙旅行
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/09/22
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泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF レ 1-11)
- 作者: スタニスワフ・レム,John Harris,深見弾,大野典宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/09/05
- メディア: 文庫
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絶望と笑い
- 作者: 吾妻ひでお
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/07/06
- メディア: コミック
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スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/12/31
- メディア: 文庫
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ここは海外文学ブログだから、漫画読みの人はあまりたどりつかないと思うんだけど(言っちゃった!)、いつか検索でひっかかってくれればいいな。いずれ続編もやりたいので、おすすめコンビがあったらぜひ教えてください。