『ペリクリーズ』ウィリアム・シェイクスピア
[絶望と喜びを生きた男]
William Sharekspeare Pericles,1608?
- 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
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シェイクスピア後期のロマンス劇。「時」に翻弄され、絶望と絶頂の喜びを両方味わった男の一生涯。
散りじりになった家族が、十数年をかけて再び出会う話である。ツロの領主 ペリクリーズは、とある王族の近親相姦の事実を知ってしまい、命を狙われるはめになる。祖国を逃れて亡命を繰り返し、美しい妻と娘を得るも、どちらも亡くしてしまう(実際は生きているのだが)。絶望の淵に追い込まれたペリクリーズは、髪を切らず体も洗わないと宣言してふさぎ込む。最後は無事に家族と再会できて、大団円のハッピーエンド。
清き人は報われ、悪しき者は滅ぶという「勧善懲悪」型の話だ。いつものような言葉遊びも阿呆もいない。後期シェイクスピアにしては、味付けが薄めだったように思う。あとがきを見たら「舞台の評判はすこぶる良いが、批評家の受けは大層悪い」と書いてあった。
ペリクリーズが家族と再会した瞬間の反応が興味深い。絶望しきった人間がいきなり幸福の絶頂まで押し上げられると、天上の音楽が聞こえてくるという。
よくよく考えてみれば、ペリクリーズは妻が死んだと思ってから十数年、娘が死んだと思ってから数年、合計で20年近くを孤独に過ごしたことになる。よく生きていたなあと思う。娘と再会するまで髪を切らないとか、娘が死んだら顔も洗わないとか、いちいちやることが極端なだけに、なおのことそう思う。ペリクリーズ王のオーバーリアクションぶりは、舞台で見たらもしかしたら面白いのかもしれない。
本書では、「時」という言葉がキーワードになっているのではないかと思った。時は無情だが、慰めでもある。
ペリクリーズ:
こうしてみると、「時」こそ人間の支配者だ、人間を生かしもすれば殺しもする。なにごとも時の気分次第、気がむくものをくれ、こちらのほしいものをくれはしない。