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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『ジュリアス・シーザー』ウィリアム・シェイクスピア

イギリス文学 ☆☆☆☆ シェイクスピア全集

[ブルータス、お前もか]

William Shakespeare Jurius Caesar,1599.

シーザー:3月15日がきたぞ。
占い師 :きましたが、シーザー、まだ過ぎ去ってはいません。


 「Et tu, Brute――ブルータス、お前もか?」 という台詞があまりにも有名な「ジュリアス・シーザー」を読んだ。
 3月15日、自分が暗殺される日を、シーザーは占い師から知らされていた。妻が止めるのをあしらって彼は元老院に出向き、そこで陰謀者に取り囲まれて、23の刺し傷を負って絶命した。あまりにもあっけない死である。しかし彼の死の影響力は強大だった。
 本書は、「ジュリアス・シーザー」という強大な中心点の不在と、同心円状に広がった波紋を描いた戯曲である。多くの人間がそれぞれに何かを抱え、混乱の渦の中に飲み込まれていく。

 読んでいて、「王の意思」について考えた。王は意思を揺らがせないものだろうか? シーザーは殺される日に、自分の意思を通すか通さないかで、矛盾した行動をとった。暗殺日に「今日はでかけない」と言ったシーザーは、しかし陰謀者に「なぜですか」と理由を問われ、「そんな臆病なことを」と説き伏せられてしまった。もともと評判の失墜を恐れていたシーザーは、意思を揺らがせて結局暗殺の舞台に引きずり込まれてしまう。一方で、暗殺直前の罪人の恩赦の嘆願は、「わたしは不動の者だ」ときっぱりとはねつける。

おれが哀願によって人の心を動かせる男なら、
人の哀願によって心を動かされもするだろう。
だがおれは北極星のように不動だ。
天空にあって唯一動かざるあの星のようにな。
……
だが俺の知るかぎり、その数知れぬ人間の中で、
厳然として侵すべからざる地位を保持するものは
1人しかいない、それがこのシーザーだ。

 おそらく王たる者は、自分の意思に理由などを必要としない。シーザーは部下の問いに、一方は答え、もう一方は答えなかった。この一貫しない揺らめき、名誉を失いたくないという恐怖心、あるいは「人間くささ」が、いかにもシェイクスピアらしいなと思う。

 本書の主人公はブルータスとも言われるが、どうにも彼の性格がつかめなかった。彼は陰謀者たちの誘いにのって暗殺に加わった。しかし、最後に人々は彼を公正な人物だと称えた。「周囲に流される高潔の士」という人物とはどういうものだろう? シーザーとブルータス、表と裏のような関係のような、そうでないような。ブルータスの役どころが難しい。もう1度折を見て読みかえそうかな。

さあ身をかがめ、手をひたそう。千載ののちまでも
われわれのこの壮烈な場面はくり返し演じられるだろう。
いまだ生まれぬ国々において、いまだ知られざる国語によって。


シェイクスピア全集


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