キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『軽い手荷物の旅』トーベ・ヤンソン

[人生も旅も]
Tove Marika Jansson Resa Med Latt Bagage , 1987.

軽い手荷物の旅 (トーベ・ヤンソン・コレクション)

軽い手荷物の旅 (トーベ・ヤンソン・コレクション)


 ふらりとどこかに行ってしまいたくなるのは、おそらく持って生まれた悪癖であって、いつでも家出ができるように荷物はできるだけ少なくしておこう、そんな風に日々を過ごしている。だから、この本は題名惚れ。しょうがない、好きなんだから。

 彼女が住んだ極北の孤島のように、澄んだシャープさを持って描かれる、「旅」とそれにまつわる「人間関係」の短編集。「旅」にありがちな、甘くぬるい心情を、美しくクラッシュしながら、「人と人は、全てをわかりあえることはない」という、いつものテーマが繰り返される。ずれて、気がついて、だけどそばにいる人たち。物語は冷たくもあり、優しくもある。

 以下、各編の一言感想。気に入ったものには*。


往復書簡:
 日本人の女の子タミコとの往復書簡。「たくさんの年を重ねる必要はない、物語を書き始めればいい。書かなくてはならないから書くのです」

夏の子ども:
 世界の悲劇についてなげく、都会の子どもを預かる話。自分がここで平和に暮らしていることに罪悪感を感じさせる、その居心地の悪さ。ニュース漬けの都会人の揶揄ともとれるけれど、最後が解放的なのが救われる。

八十歳の誕生日:
 ふとした瞬間、自分は相手を愛していなかったと気づいてしまうこの心。最後の乖離のスピードは圧巻。

見知らぬ街:
 見知らぬ街に迷い込む、地に足のつかない不安について。拾った帽子に書かれていたアドレスをてがかりに、見知らぬ人に会いに行く。わけのわからない感じが、むしろリアルな旅くさくて、なかなかおもしろかった。

思い出を借りる女:
 自分でない、誰かになりたい。そのためなら、記憶を入れ替えたってなんともない。静かな狂気。ありそうな話。

軽い手荷物の旅:
 自分の望む旅の作法に従おうとするけれど。うまくはいかない、そんなものさ、人生も旅も。

エデンの園
 人のよい老女が、人づき合いの摩擦をどうにかしようとがんばる話。トーベは「善悪の判断がつきかねるけれど、人間くさい人」を書くのが本当にうまい。

ショッピング
 ディストピアSFのような世界の中で、二人の男女がその日暮らしをする。うーむ、こういうのも書くんだ。ささいな出来事が決裂を生み、そして決壊して、壁を壊しながら進んでいく。

:*
 ターザンごっこをする姉弟。トーベの実際の記憶なんだろうなと思う。ムーミンに通低する世界観。

体育教師の死:
 死んでしまった体育教師にやさしくしなかったことが、どうしても気にかかる。ものすごくどシュールな会話。胃がきりきりしてくる。


 孤島に療養にきた夫婦の関係が、鳥を中心にしてどんどんずれこんでいく。レイモンド・カーヴァーを思い出した作品。

植物園:**
 偏屈なおじいさんたちの、奇妙な友情。ぜんぜん大人じゃないじいさん達が、だんだんと友情を育んでいくのがいい。やさしい話。本書では一番好きかも。


トーベ・ヤンソンの作品レビュー:
『トーベ・ヤンソン短篇集』
『少女ソフィアの夏』
『フェアプレイ』
トーベ・ヤンソンコレクション


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