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『愛その他の悪霊について』ガルシア・マルケス


[愛は悪霊のように]
Gabriel Jose Garcia Marquez Del Amor y Otros Demonios, 1994.

愛その他の悪霊について

愛その他の悪霊について

 そして、恐慌にとらわれる前に、生きる妨げとなっている頭脳というあの濁れる物質をかなぐり捨てて告白した――彼女のことを考えない時間というのは一瞬もなく、食べるもの飲むものすべて彼女の味がし、唯一、神のみがそうであってしかるべきなのだが彼にとって人生とはいつでもどこでも彼女のことであり、彼の心の最高のよろこびとは彼女とともに死ぬことである、と。


 憑かれたように愛したとしても、この愛は叶わない。

 ラテンアメリカの植民地時代を舞台にした、わりと正統派の恋愛物語。だけど、マルケスの手にかかると、狂犬に噛まれた悪魔つきの少女と司祭の恋愛になる。やはりマルケスはマルケスだ。

 愛は病であり、人は盲目になるというのは、昔から語られている真実の断片だ。悪霊でも愛でも、どちらにせよ、理性をかなぐり捨てるほどの激情であることには変わりがないのかもしれない。マルケスの描く人間は、だいたい全員どこかねじが外れているが、今回は、修道院のあくどい女たち(とりあえず人のものを盗む)と、殺人修道女マルティナがつぼだった。いつも男性よりも女性の方が、強烈なイメージがある。


 マルケスが、修道院で見つけた一体の少女の骨から、今回の話はできあがったらしい。少女の遺骨は、髪の毛が22メートルもあったという。さすが南米である。超現実が普通に起こってしまう。そしてその小さな題材と、幼いころに祖母から聞いた伝説を組み合わせて、ここまで物語を創造することができるマルケスは、つくづく語り手だなあと感心する。

 なぜ愛したか、どこを愛したか、そんなもっともらしい理由が語られない。だからこそ、悪霊のような愛情なのだろう。空気としての愛が漂う作品。


G・ガルシア=マルケスの著作レビュー:


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