キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『グローバリズム出づる処の殺人者より』アラヴィンド・アディガ

[とんだお笑いぐさだ!]
Aravind Adiga The White Tiger ,2008.

グローバリズム出づる処の殺人者より

グローバリズム出づる処の殺人者より

おれは長年その鍵を探してきた。だが扉はつねにあいていたのだ。


 インド人ジャーナリストが描く、現代インドの「光」と「闇」の物語。主人を殺して「起業」した男<ホワイト・タイガー>が、中国の首相に向けて、自身の人生を独白する。

 題名からして、どこのB級サスペンスかと思いきや、中身はけっこうシュールだった。究極の格差社会であるインドの闇を、ブラックユーモアで徹底的に描いてみせる。笑えるんだけど笑えない。そんな小説。

『ビジネスを成功させる十の秘訣!』だの、『あなたも一週間で起業家になれる!』だの。
 そんなもので金をむだにしてはいけません。アメリカの本などもう古い。
 これからはわたしです。

 大真面目に、「起業家精神」を説く殺人者。語り口がやたらおもしろいので、つい引き込まれてしまう。「信心深い貧民」は、「鳥籠に捕らわれた、根っこからの奴隷根性」、「母なるガンジス川」は、「腐肉の浮く黒い泥の川」と喝破される。あちこちに、「ハハ!とんだお笑い種だ!」という殺人者の哄笑が響く。

 私も一度インドに滞在したことがある。もう二度と行きたくないとは思うほどではないが、それでも精神的にかなりきつい思いをした。おそらくきついと感じた理由は、殺人者のこの言葉にあるかもしれない。

 「動物は動物らしく、人間は人間らしく生きる。それがわたしの哲学です」

 『罪と罰』のラスコーリニコフは、殺人の罪悪感にさいなまれたが、ホワイト・タイガーは罪悪感の欠片も感じてはいない。家族が殺されるのを知っていて、なおそれでも「人間として生きる」と言い切るこの男に、平和に暮らしてきた人間が何を言えるだろうか?

 とはいえ、描かれるインドの「闇」は相当重いものであるにも関わらず、語り口調のせいか、妙に軽い感じなので、そこまで肩を張らずに読める。それがこの本のいいところでもあり、残念なところでもあるのだろうが。ブラック・ユーモアでブラックな世界を描くとこんな本になるという、ある科学調合の結果として。


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