読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『不死の人』ホルヘ・ルイス・ボルヘス

南米文学 ☆☆☆☆☆


[世界に酔いしれ]
Jorge Luis Borges El Aleph,1949.

不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

どんなにもなりうる人というのはいない。ただ一人の不死の人がすべての人である。(「不死の人」より)


アルゼンチン随一の幻想作家による、時間と空間の「迷宮」短編集。

構成要素のわからない作家がいる。「何を食べたらこういうものを作れるんだ」と首をひねらずにはいられない作家たち。そんな作家のリストに、ボルヘスはぜひ招きたい。とんぼみたいに、見ている世界が違うんじゃないか、脳の住む次元が違うんじゃないか(比喩ではなく、直接的な意味で)とわりと本気で思うお人である。

ボルヘスの書いたものは、小説ではなく「言葉で構築された何か」だといった方ががいいかもしれない。たとえば、メビウスの輪。世界は始まりもなく終わりもなく、ぐるぐると閉じて廻っている。一は全、全は一。偏在と不在。論理と反証。時代が時代なら、彼は間違いなく「魔術師」と呼ばれていただろう。

以下、気になった作品の一言レビュー。


「不死の人」
伝説の不死の都にたどり着いた男の手記。ホメーロスの時代から20世紀まで生きた男が、自分の生について語る。「そんな馬鹿な、嘘くさいよ」という反論さえ絡めとるこのしかけ。濃密で酔い痴れる。

「タデオ・イシドロ・クルスの生涯」
メビウスの輪の中で、「死」を描くとこうなる。まさにボルヘス的作品。死は廻り続ける。

「アベンカハーン・エル・ボハリー」
王と奴隷、立場の逆転、理屈の反転。事象の結果と経過は必ずしも一致しない。

「アレフ」
なんだかすごいものに出会ってしまった。という作品。この作品、ボルヘスの実体験談な気がしてならない。そしたらいろいろ納得するんだけど。


「博覧強記」というか、「博覧狂気」というか、とにかく引用と論理の構築がすさまじい。「神学者たち」は、哲学辞典を読みながらでも、ぜんぜん消化しきれなかった。ボルヘスは、どこまでもいっても、つくづくボルヘスだった。彼には、比類も類推も存在しない。


ホルヘ・ルイス・ボルヘスの著作レビュー:
『伝奇集』


recommend:
ビオイ・カサーレス『モレルの発明』ボルヘスと親交のある作家の作品。不死についての物語。この叙情性がたまらない。
ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』…時の中に偏在。