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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『アンティゴネー』ソポクレス

[運命と掟]
Σοφοκλ Sophokles Antigone, B.C.5

アンティゴネー (岩波文庫)

アンティゴネー (岩波文庫)


テーバイ三部作、オイディプス一族にまつわる悲劇の終幕。『オイディプス』『コロノスのオイディプス』についで、オイディプスが死んだ後の話になる。

「血族」という言葉は、日本の風習をよく表しているなと思っていたけれど、どうやら古代ギリシャでも当てはまるらしい。オイディプスの呪われた悲劇の運命は、本人が死んでもなお、血として受け継がれる。アンティゴネにとって、母は、母であり祖母であり、父は父であり兄である。血の因縁は、オイディプスが死んでもとまらない。

父と同じように、アンティゴネーもまた、踏んだりけったりの人生を送る。長年つきそった父はすでに鬼籍の人、『コロノス』ではまだ生きていた兄たちは、謀反の罪で殺されている。兄たちを埋葬したいというアンティゴネーの願いを、新王クレオンはすげなく却下する。それどころか厳罰まで用意して、脅しつけ服従を迫ってくる。

これまでは、神の決めた運命が人間をしばっていたのにたいして、今回アンティゴネーをしばったのは、人間がつくった法律だった。これまでのテーマと似ているようでいて、ちょっと違っておもしろい。『アンティゴネー』は、物語の時系列では最後になるが、制作過程では最初に作られたものなので、どこかしら違った雰囲気があるのかもしれない。

アンティゴネーは強い女性として描かれる。父を看取り、危険をかえりみず兄を埋葬し、幽閉されると、誇りを失わないままに自殺する。
「誇り高い」というのが、彼女にはぴったり合う言葉だと思う。あれだけ過酷な人生で、ここまですれていないで、まっすぐなのはすごい。それとも、過酷だからこそ彼女みたいになるのか。
暴君クレオンの運命もまたけっこうひどいのだが、アンティゴネーとの対比で描かれているから、別の意味でくっきりと「器の違い」が浮かび上がる。ソポクレスは、まるでギリシャ彫刻みたいな劇のつくり方をすると思う。鮮やかで、迫真にせまる。

自然の摂理にはさからえないが、人の掟は取るに足りないか?人をしばるものについて、考えた話。


テーバイ三部作:
『オイディプス』
『コロノスのオイディプス』
アンティゴネー』


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