ボヘミアの海岸線

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『少女ソフィアの夏』トーベ・ヤンソン

[対等な関係]
Tove Jansson Sommarboken ,1973.

少女ソフィアの夏

少女ソフィアの夏


 北欧の小さな島で暮らす祖母の家に遊びに行く、少女ソフィアの夏の話。トーベ・ヤンソンの懐かしい記憶で描かれた、美しい作品だ。

 親から子へと伝わるものがあるらしい。それは血であり、感情であり、好き嫌いであり、気がつくと似たようなものを手に取っていたりして、自分自身の選択に驚くことがある。

 トーベ・ヤンソン好きは、どうやら母から受け継いだようだ。馬鹿がつくほどトーベ・ヤンソンが好きで、ムーミンシリーズにまつわる珍妙な武勇伝は、家族内でのネタになっている。当然のことながら、私も小さい頃ムーミンシリーズを読んでいたのだけれど、ムーミン以外の作品を手に取るのは大学生になってからだ。ムーミン以外を読んで、はじめてわかった気がする。なぜ母があれほどトーベのことが好きだったのか。

 トーベはある意味、ものすごく野性的な人だ。絵を見ても分かるが、あの世界への目線がやばい。まるで森の妖精のように世界を見る。

 そんな彼女が描く人間関係は、やっぱりどこか野性的で、のびのびとしている。人生の扉を開けたばかりの少女ソフィアと、人生の出口にたたずむ祖母。
 2人は年齢が70も違うが、対等な関係で接している。この2人の会話は、遠慮がなくて、真剣で、見ていて気持ちがいい。
 外からやってくる他者におびえたり怒りながらも、なんだかんだとのんびり暮らしている。たぶん本当にトーベの生活ってこんなだったんだろうなあ。でなければ、ああいう世界は描けない。


 人間関係における「普通」ってなんだろうと思う。衝突をしないように距離をとったり、気の合う同世代とつきあうのを「普通」と呼ぶのなら、彼女たちはちょっと変わっているのだけど、でも見ていると全然そんな気がしない。自然の中で、自然にふるまう。都会のど真ん中に生活しているからこそ、いいなと思う。素直に、こんな人間関係を結んでみたらおもしろそうだ。

 そして読み終わった時に気づいたのは、母はトーベのような精神を持っていて、それは私にも受け継がれているということだ。本の中で、自分の構成成分を知る。本を読む愉しみは、こういうところにある。


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