キリキリソテーにうってつけの日

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『夜明け前のセレスティーノ』レイナルド・アレナス

[吹っ飛ぶ]
Reynaldo Arenas Celestino Antes Del Alba , 1967.

夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)

夜明け前のセレスティーノ (文学の冒険シリーズ)

 「さあ、言うんだ、どこにビンを隠したか。でなきゃ頭をまっぷたつにしてやる!」
 「その人から斧をとって!酔っぱらっているから」
 「いかれたわ!」
 「斧!」


 キューバの作家による、少年時代のあふれはじける記憶の詩。アレナスが生涯かけて取り組んだ仕事、ペンタゴニア(苦悩5部作)の第1作にあたる。極貧の家庭で、じいさんは斧をふり回し、ばあさんは熱湯をかけようとし、母さんは井戸に飛び込もうとする。セレスティーノは詩を書いて、僕はそんな狂った世界を生き抜いて、言葉を紡ぎだす。


 すごい世界を垣間見た。しょっぱなからじいちゃんが斧を振り回して孫の頭をかち割ろうとしたり、ばあちゃんが十字架を薪にしてくべたりするシーンで、頭をがあん、とやられてしまう。ちょっとほかの読書の合間に読もうとしたのだけれど、とんでもない。一気にひきずりこまれて、そのまま滝から落ちるみたいに読みきってしまった。

 まるで文字から何かが出てくるんじゃないかと錯覚するほど、奔放なエネルギーに充ちている。狂った世界をみつめる子供の視点が、あの世もこの世も、現実も幻想もごっちゃにする。世界は煮えたぎっている。すべてが魔術めいている。なんてものを書くんだこの人は。

 「アチャスアチャスアチャスアチャスアチャス」と狂ったように続けられるリズムもあれば、突然ページがわりこんで、シェイクスピアボルヘスの引用がはさまって読書のリズムが崩れたりして、ダイナミックな音楽のよう。特にこの「アチャス(斧)」は、僕やセレスティーノに迫りくる暴力の嵐として、何度も何度も吹き荒れるキーワードになっている。とにかくじいちゃんの存在感が強烈。とりあえず殺しにくるじいちゃんって!

 頭が吹っ飛ばされるような小説だった。小説というよりは、散文詩といったほうが正しいか。確かに、子供から見たら、世界は秩序だっていなくて、こんな風にぐるぐるしているものかもしれない。生と死のエネルギーが核爆発するような本を読みたい人におすすめ。


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