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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『砕かれた四月』イスマイル・カダレ

[血の掟の中に]
Ismail Kadare Prilli i Thyer, 1980.


砕かれた四月

砕かれた四月

ああ、すぐそっちに行くよ、わずかな血を流すために。


 アルバニア作家が描く、血の「掟」(カヌン)、復讐の血に閉じられた円環の物語。死に濃密に塗りこめられる世界の中で、男と女と男がすれ違い、視線を交わして別れるまで。


 死は、人間に定められた行く末だ。どんな人間も、いつかは必ず死ぬ。しかし、この物語では、死ぬ時は「いつか」ではなく、もっと厳格に定められている。
 アルバニアの高地、毎日どこかで必ず「掟」に定められた殺人がある浮世離れした世界が、物語の舞台となる。復讐は連鎖する。殺した者は殺されなければならず、殺された一族は相手の一族を殺し返す。
 どちらかの一族の血が途絶えるまで終わらない。復讐は、恨みや憎しみからではなく、誇りと義務によって続行されていく。


 戦慄する物語だった。掟は重く、誇りは重く、人の命は軽い。この話には、「掟」に従って殺人を犯した男ジョルグと、街から新婚旅行にやってきた作家夫妻、高地を治める大公関係の人々が登場する。作家の夢見がちな視線(しかしこれは外部の人間のあるひとつのポピュラーな態度である)、血の税官マルクの「掟」第一の考え、作家の妻の態度の変化……容赦ない「掟」に対する、それぞれの立場が浮き彫りにされる。ありきたりな「善悪」の判断は、荒涼の大地に飲み込まれる。
 ただただ淡淡と、理不尽な世界はそこにあって、確かさと不確かさを抱えながら、人の心と命を食らい続ける。このとんでもない不条理システムは、ある意味でとても合理的に作られているから、やるせない。なんなんだもう、こんな世界、と思いつつ、それでも鮮烈な「死」から、「死」に取りつかれた人々の姿から目が放せない。

 やがて「誓い」によって定められた休戦期間は切れて、4月はふたつの時に砕かれる。

これがそう、誓いの切れた時間なのか? もはや自分の意思で使うことが出来ない永遠の時間。日付も、季節も、都市もなく、未来もない、もはや彼とは何の結びつきもない抽象的な時間。

 重いが、強烈な印象を残していく作品。激烈におすすめ。


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