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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『巴里の憂鬱』ボードレール

フランス文学 ☆☆☆☆

[雲を愛す]
Charles Pierre Baudelaire Le spleen de Paris ,1869.

巴里の憂鬱 (新潮文庫)

巴里の憂鬱 (新潮文庫)


 19世紀フランス詩人による、散文詩。アンニュイという言葉が似合うボードレールの詩と、三好達治の漢語めいた美文が合わさって、じつにクラシックな仕上がりになっている。

 「パリの憂鬱」ではなく、「巴里の憂鬱」である。このことからも分かる通り、本書にはほとんどカタカナが出てこない。「瓦斯灯」とか「硝子」はまだしも、「麺麭」「恰も」「阿諛」「大廈高楼」あたりになると、ちょっとした漢字検定のよう。「阿諛」なんて言葉、はじめて見た。

 以下、気に入ったものの一口感想。


「異人さん」:まずはこれから。これ立ち読んで気になったら、買っても損はないと思う。

「けしからぬ硝子屋」:これは印象的だった。ラストの映像美がやばい。けしからんのはお前だ、というつっこみは不在。

「時計」:「中国人は猫の眼のうちに時間を読む」。この一文がいい。

「スープと雲」:「異人さん」と対で読むと、ボードレールの美意識の一端が見える。

「貧民を撲殺しよう」:すごいタイトル。ドストエフスキーの「罪と罰」の発想。

「寛大なる賭博者」:あの有名な悪い人とおしゃべり。

「どこへでも此世の外へ」:「この人生は一の病院であり、そこでは各々の病人が、ただ絶えず寝台を代えたいと願っている」という名高い一文がある。


 「優れた散文は詩を含んでいなければならない」というオクタビオ・パスの言葉を思い出した一冊。物語に酔うのも魅力的だが、言葉に酔ってみるのもまた良し。ちょっと読みにくい部分もあるが、海外文学&日本語大好き、という人にはおすすめ。


recommend:
日本語と訳者の絶妙なるコラボレーション。海外文学なのに日本文学。
上田敏海潮音』…ヴェルレーヌマラルメボードレール。フランスの同時代の作品を読んでみる。もはや上田作品だけど、日本語がすばらしい。
ボードレール『悪の華』…堀口大學訳。こちらも名訳と誉れ高い。
井伏鱒二『厄除け詩集』…こちらは中国詩。「さよならだけが人生だ」という、有名な詩はこちら。(知っている人の半分は太宰ファンなのでは)