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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『アウラ・純な魂 フエンテス短編集』カルロス・フエンテス

[扉の向こう]
Carlos Fuentes Macías Aura,1962.

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)


 扉を開けて、立ち尽くす。何を言うまでもなく、ばたんと扉は閉められる。呆然とする、しかし背中にひやりと伝うものがある。

 メキシコ作家による、暑いのにひやりとする短編集。南米のうだるような暑い空気の中、ふとした瞬間になにかがめくれて、常ならぬものが見えてしまう。どこかゴシック・ホラーのような雰囲気がただよう物語を、南米、メキシコの風土でやるとどうなるか?以下、一言感想。


「チャック・モール」
 雨の神様、チャック・モールの話。マヤ文明は大好きなので、非常におもしろかった。「血と生贄」を求める神様が土着でいたからこそ、キリスト教は根づいたという、文化人類学的な視点もある。

「生命線」
 革命と銃殺。ありふれた死線と、わずかな生命線。マルケスの『百年の孤独』も、そういえば、銃殺シーンから始まったなあ。一斉射撃に闘争路など、全体的に「線」のイメージ。

「女王人形」
 好きだった女の子からの手紙を発見して、会いに行ってみるけれど。ぜんぜんロマンチックな展開にならないで、突き放される。

「純な魂」
 ヨーロッパにいった兄と妹の文通、それにまつわる妹の独白。どことなく不穏で、抑制された筆致で描かれる怖い世界は、なんとなくカズオ・イシグロを思い出した。

アウラ
 老婆と美女と一人の男が、ひとつ屋根の下で展開する関係。時間軸がぐるぐる回る。繰り返される恋とエロティシズム、永遠の花嫁。主人公が起きた時に、時計の時間がわからないシーンが印象的。


 メキシコの脈々と受け継がれる神話や死生観の世界が、浮き彫りになる短編集。文面上は、おかしいところなどひとつもないように見えるのがポイント。なのに、見てはいけないものを見てしまった気がしてしょうがない。「チャック・モール」「純な魂」のように、メキシコ的なものとヨーロッパ的なものとを対比する物語もあって、文化人類学的に見てもおもしろい。ティオティワカンの遺跡の写真とか見ながら読むと、テンションがあがりそう。


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