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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『モレルの発明』アドルフォ・ビオイ=カサーレス

[あなたのそばに]
Adolfo Bioy Casares La invencion de Morel , 1940.

モレルの発明 (フィクションの楽しみ)

モレルの発明 (フィクションの楽しみ)


 叶わない願いに対して、変えられない過去について、不死について、あるひとつの答え方。

 ただすばらしいの一言につきる。愛という名の狂気を、これほどまでに劇的に描き出されるとは思ってもみなかった。読み終わったときの、後ろから頭をなぐられるような衝撃を忘れられない。

 カサーレスはアルゼンチンの作家で、年齢の枠を超えた、ボルヘスとの友情が知られている。本書の献辞はボルヘスに捧げられ、序文はボルヘスが書いている。*1


 「主人公の手記」という形で物語は始められる。身にやましいところがあって、どことも知れぬ無人の孤島に逃げ込んだ主人公は、不思議な体験に直面する。誰もいないはずの島に、いつの間にかたくさんの人々が現われて、嵐の中で楽しげなダンス音楽が鳴り響く。そして見上げれば、そこにはふたつの月と太陽が……。

 かつて、モレルという男が作った「モレルの発明」により、この奇妙な世界は形づくられる。ガジェットはSF小説のようだが、そこに科学的な説明はないし、求めても意味はないので、象徴的に読み飛ばした方がいいだろう。

 この世界は、ボルヘスのように幻想的だが、カサーレスの世界はもっと映像的だ(なお、本書をもとにした映画『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』がある)。映像的だからこそ、現実との境が曖昧だからこそ、この物語はかくも美しく、おぞましい。


 人は影に過ぎないのか、他者と理解しあうのは幻か?

 死んでも恋した女性のそばにいたいという願いと狂気、そしてその願いに対する答え方が、この物語のすべてだ。誰もいなくなった島で、語り手の叶えられなかった願いが叶えられ続けているシーンを想像すると、なんとも切なくなる。

 それでも人は恋をする。分かり合えないと知りながら、心を通わせられないと知りながら。


recommend:
不死、硬質の幻想世界。
ボルヘス『不死の人』…不死のモチーフ。
カサーレス『豚の戦記』…老人狩りの話。衝撃的。
スタニスワフ・レムソラリスの陽のもとに』…分かり合えない。

『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』…『モレルの発明』とルーセルの『ロクス・ソルス』を題材にした映画。

*1:ブストス=ドメックの名前で、2人は『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』という共著を出している。