ボヘミアの海岸線

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『それ自身のインクで書かれた街』スチュアート・ダイベック

[記憶の断片あるいは]


 先月にスチュアート・ダイベックの来日講演会に行った時、ダイベックの詩集を買った。買う予定はなかったはずなのだが、気がついたら手元にあった。きっと、ダイベックがダンディだったせいと、お昼のカツサンドが思いのほかおいしかったせいだ。

 彼の詩を読んだのははじめてだが、雰囲気は『シカゴ育ち』『僕はマゼランと旅した』と似ている。叙情性と、国籍がごちゃ混ぜの移民感覚、どこの国とも知れない空気にひたる。どちらかといえば、短編よりも、自伝的な要素、思い出要素が強いかもしれない。「自伝」「啓示」など、過去が強烈に意識されている作品が多い。

 ダイベックの作品は詩的だと思っていたが、どうやらダイベックは自分自身を、作家である前に詩人だと思っているようだ。講演会で「詩の形になりきらないものが、短編になる」と言っていた。個人的には今回の詩集にあった作品で、むしろ短編にしてもらいたい作品がいくつかあったのだけれども(「風の街」とか特に)。

 記憶の断片あるいは原風景に立ち戻る。

one simply chose a thoroughfare
devoid of memories, raised a collar,
and turned one’s back on the wind.
I remember closing my eyes as I stepped
into a swirl of scuttling leaves.
[Windy City]


君はただ どこかの記憶を 欠いた
目抜き通りを選んで 襟を立て
風に背を向ければよかった
僕もあのとき 目を閉じて
くるくる舞う葉の渦に足を踏み入れたのだった。 
「風の街」


スチュアート・ダイベックの著作レビュー:
『シカゴ育ち』
スチュアート・ダイベック講演・朗読会


recommend:
きらきら光る空気を放つ作品。
スティーブン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』・・・きらめく職人世界。
レイ・ブラッドベリ『火星年代記』・・・火星なんだけど地球と人間の話。
シオドア・スタージョン『夢見る宝石』・・・夢はきらめく。

Stuart Dybek Streets in Their Own Ink , 2004.