キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『詐欺師の楽園』ヒルデスハイマー

Wolfgang Hildsheimer Paradies der falschen voger,1958.
[ペテン尽くし]

詐欺師の楽園 (1968年)

詐欺師の楽園 (1968年)

そもそも本物の絵とは何だろう?本物の絵とは即ち、ひとりあるいは数人の専門家によって本物なりと折り紙をつけられた絵にほかならぬ。


 痛快愉快、ぬけぬけとしたペテン尽くしの物語。徹底的な詐欺っぷりがすばらしい。まさにエンターテイメント。

 物語は絵画、それも贋作絵画を中心に展開する。舞台は、プロチェコヴィーナ公国という、バルカン半島にある、小さな架空の国。
アヤクス・マズュルカという、「プロチェコヴィーナのレンブラント」と称される国民的画家がいるのだが、この画家はじつはこの世に存在したことはない。
 彼の作品は主人公の叔父がつくった創作物で、マズュルカ評伝も歴史も名声もペテンである。しかもそれが、国家規模で行われる一大ペテンなのだからおもしろい。さらに主人公も死んだことになり、不幸の画家として、彼が描いたことのない絵が高値で取引される。ためしに主人公本人が描いてみると、「それは偽ものですよ」と言われてしまう。

 存在したことのない画家、贋作家、贋作を愛でる愛好家、でっちあげする国家、でっちあげに加担する学者。歴史も評価も国も、すべてひっくるめてまがいもののオンパレード。架空の作家の贋作が現われてくるあたりになると、もうなにがなにやら分からない。

新しいマズュルカ作品がこれまでに出現したことからもそれは明らかであり、そして引き続き今後も増えていくみこみである。

 今後も増えていくみこみ。なんて気のきいた文章だろう。

 すべて茶番、詐欺師の楽園なのだが、「本物がすばらしいのだ」という方向に持っていかないあたりに、良い軽さを感じる。マズュルカの作品を見て感動する人にとっては、マズュルカは本当に存在した。そう言い切るところがいい。

 もちろんこの話もフィクションであり、ペテン師である作者の言うことを信じる道理なんてこれっぽっちもないのだけれど(なにせ、手記は真実を書き留めると言っているのだ、ぬけぬけと)、それでもこの話には騙されてもいいように思えてくる。

 さすが、隠れた名作と言われる作品だと思う。絶版古書なので、図書館で見かけたらぜひ一読をおすすめ。


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