『宮殿泥棒』イーサン・ケイニン
[優等生の物語]
Ethan Canin THE PALACE THIEF ,1994.
- 作者: イーサンケイニン,Ethan Canin,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/03
- メディア: 文庫
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私はそのときたぶん、考えていたのだと思う。わが人生でありえたかもしれないあらゆる人生のなかで、なぜ自分が、いまここで語ったような人生をいきてきたのかを。
アメリカの超優等生作家が描く、優等生の4つの物語。品行方正で真面目、人生中に判断や道を踏み誤った覚えも特にない。主人公たちは、いわばそうした「優等生」だ。普通の小説だったら、彼らはおそらく「モブ」として描写されるだけだろう。はたから見れば、安定していて起伏のない人生のように見えるかもしれないが、そんな彼らにも語る物語がある。
周囲に置いていかれてしまったせつない父親の話「傷心の町」、判断ミスからずれてずれてしまった教師の話「宮殿泥棒」がよかった。優等生は優等生のまま、語られる。ていねいな視線が好ましい。
作者イーサン・ケイニンは、ハーバード大の医学部を卒業した、医師であり作家でもある。作家本人が「ど」のつく優等生なのだから、そりゃ書く優等生もリアルなはずである。
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