ボヘミアの海岸線

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『海に住む少女』シュペルヴィエル

[霧のような寂しさに]
Jules Supervielle L'ENFANT DE LA HAUTE MER ,1931.

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

 ウルグアイ生まれ、フランス育ちの作家・詩人による、「こちらの世界」と「あちらの世界」、ふたつの世界の境界を少しゆるめたような世界を描いた短編集。

 シュペルヴィエルのことを、訳者は「フランスの宮沢賢治」と評しているようだ。賢治とシュペルヴィエル、どちらも幻想と静寂の世界観だが、賢治を鉱石のような静かさに例えるならば、シュペルヴィエルはどちらかというと、霧のようなあいまいな静かさがある。

 表題「海に住む少女」の美しさは、とりあえず一読の価値がある。海に、浮かんでは消える町、そしてそこに住む少女の存在。最後にじんわりと余韻が残る秀作だ。

 海、少女、死の向こう側、寂しさと孤独。シュペルヴィエルの描く世界は、静かな詩の色合いに満ちている。まるで水彩画のような、寂しい静寂の余韻にひたる。


recommend:
静寂の美しさ、詩人。
宮沢賢治銀河鉄道の夜』…少年と銀河、そして死。
中原中也『汚れっちまった悲しみに』…「サーカス」が好き。ゆあーんゆよーん
谷川俊太郎『二十億光年の孤独』…これもいい詩。