キリキリソテーにうってつけの日

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『華氏451度』レイ・ブラッドベリ

[本は燃えているか]
Ray Bradbury FAHRENHEIT 451 ,1953.

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)


 大御所SF作家が描く、焚書の世界。アンチ・ユートピア=ディストピアを描いた名作のひとつとして名高い本編。ディストピア文学の中では、絶望の度合いがやわらかい。

 華氏451度は、摂氏でいえば233度くらい。つまりは本が燃える温度のこと。偉大なる本の虫だったブラッドベリにとっては、本が焼かれる世界はまさに「ディストピア」だったろう。もちろんこの本を手に取る、多くの本読みたちにとっても。

 真実をつぶし、心をつぶし、見たくないものにはふたをする。フォークナー、ホイットマン、聖書、シェイクスピアも、全部燃えて灰になる。そんな監視と制裁につつまれた世界は、見ているこちらを憂鬱にさせる。

 しかし、ジョージ・オーウェル『1984年』が徹底的に悲惨だったのに対して、ブラッドベリは何かしらの希望の余地を残してくれる。

 この本の一番の見どころは、少女クラリスだろう。

「たしかにあたし、あんたの知らないことを知っているわね。夜明けになると、そこら一面、草の葉に露がたまるのを知っていて?」

 彼女は前半の一瞬にしか出てこない。だけど彼女は、まるで映画『シンドラーのリスト』の白黒世界に、一人だけカラーで出てくる、赤い服の少女のように、主人公モンターグの心に決定的な変化を与える呼び水となる。

 そして話が進むにつれて、無機質な世界を反映した文章の中、はっとするような花の描写や自然の描写が入ってくる。ビルの中を歩いていて、ふと空の青さに気づくような目線の移動が印象的。

 本を読めることは幸せだ、本当に。最後に、クラリスとモンターグの会話から。

「あんた、幸福なの?」
「ぼくが―――なんだって?」
かれはさけんだが、彼女はいってしまった―月光の中を走って。


レイ・ブラッドベリの著作レビュー:
『火星年代記』

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ディストピア、もしくは本と検閲の話。