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『望楼館追想』エドワード・ケアリー

[立ち尽くして、一歩]
Edward Carey OBSERVATORY MANSIONS, 2000.

望楼館追想 (文春文庫)

望楼館追想 (文春文庫)

手袋をして、人が触ったものすべてを調べる魔法使いは、この世界の上を漂いながら、下界の人々を見守り、苦しみをすべて見届け、世界を監視しつつ、だが、絶対にそれに触れようとしないのだ。

 イギリス現代作家による、30歳の時のデビュー作。古い住宅と、ずれこんだ人々の共同生活の話ときたら、手にとらないわけにはいかない。

 他人の愛したものを盗んで収集する「ぼく」、人語をしゃべることができない「犬女」、汗と涙を流しつづける元教師など。望楼館に住む人々は、いかにも奇妙な人びとで、それぞれ立ち止まったまま、動けない。彼らをしばっているのは思い出だけど、彼らはそれを見ようとはしない。しかし、とある一人の新しい入居者の登場で、錆びついた時計の針が動き出していく。

 「望楼館」の本名は「observatory mansions」。observatory、いろいろ意味はあるけれど、「監視衛星」という意味もあるらしい。これは、記事の最初に抜粋した主人公フランシス・オームの心情にぴたり当てはまる意味だと思う。フランシスは、自分が手袋をはめたまま他人に触れない理由を、ここに落ち着けている。

 全体的に、よく構成されている物語だと思う。冒頭にかかげられた詩は、まさにこの物語の核について述べているし、小説形式も形式も、びっくりするくらいスタンダード。内容的にはとてもいい話で、「立ち尽くしたその場所から、一歩を踏み出す」というメッセージも好きなタイプだけれど、造花っぽいというか、予定調和すぎるというか。でもたぶん、常に需要のあるタイプの作品だとも思う。いかにも小説っぽいのを読みたい人におすすめ。


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