キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『寄宿生テルレスの混乱』ムージル

[混乱と青年]
Robert Musil DIE VERWIRRUNGEN DES Z〓GLINGS T〓RLESS,1906.

寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫)

寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫)

そのときなにかがはじめて石のように、テルレスの夢想の漠然とした孤独の中に落ちた。落ちてきて、そこから動こうとしない。・・・ライティングが話したように。突然の変化。人間が変わってしまったのだ……。


 オーストリアのユダヤ系作家が描く、青年時代の魂の混乱の話。舞台は、全寮制の男子校、ギムナジウム。「性への目覚め」と「いじめ」。本書は、青年期を語るエピソードとして、かなり正統的なふたつの軸で語られる。


 テルレス少年の「混乱」は、まるで心不全の心電図みたいだ。突然起こり、ぐちゃぐちゃっとなって、やがて収束していく。読んでいるこちらまでが、混乱してくるテルレスの混乱っぷり。時に虚数、時にカント、そして自分の魂が、同じボウルの中でごちゃ混ぜになっている。もう少し落ち着け少年、と言いたいが、なるほど自分もうまく棲み分けができなかったような気がする。

 テルレスは突然、お金を盗んだ同級生バジーニに性衝動を覚える。ここの展開は、なかなかに迫力があった。さてテルレスは、バジーニが美少年だったから、欲情したのだろうか? どちらかといえば、男子校だったから性衝動が同級生に向けられたのであって、バジーニの向こうに見える娼婦ボジェナ、さらには母親の影に、テルレスはひっぱられたのではと思う。

 同性愛ではなく、むしろマザー・コンプレックスの克服かと。母親の女のにおいを拒絶していたテルレス(アイドルと好きな子はトイレに行かない!みたいなものか)が、最後に母親の香水の香りをかぐシーンが印象的。

 いじめの部分は、妙にリアル。力で征服するライティングと、理論でつめるバイネベルク。そして服従するバジーニ。今も昔も、西でも東でも、繰り返される世界の縮図を見るようでもある。

 突然のように世界は変わり、もつれて混乱し、それでも空は抜けるように青く。いい感じに青くささがある作品。青春期に悩むのは普通だとしても、虚数やらカントに向かうのが、さすがドイツ語圏というか。時代とお国柄を感じる。
 ところで本書、「ボーイズラブの古典」とか後ろに書いてあるけど、BLはまず恋心ありき、みたいなロマン的なものではないのだろうか。あんまり詳しくはないんだけど、でもテルレスは少なくとも違う気がする。いきなりの性衝動って、なんかロマンがない。BLはドイツでだんとつ売れるらしいが。


recommend:
ゲーテ『若きウェルテルの悩み』 (題名も似ている)
エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』 (ドイツ、ギムナジウム
ヘルマン>ヘッセ『デミアン』 (ドイツ青年期と心)