ボヘミアの海岸線

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『ポー詩集』エドガー・アラン・ポー

[もう二度と]
Edgar Allan Poe COLLECTED WORKS OF EDGAR ALLAN POE .

ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)

ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)

ポー詩集 (新潮文庫)

ポー詩集 (新潮文庫)


 本棚を整理していたら、ポーの詩集が出てきた。ううむ、なつかしい。私が外国文学を読むきっかけを作ってくれた恩師に影響されて買ったものである。

 今も昔も好きなのは、もっとも著名な詩のひとつである「The Raven―大鴉」。ひそりと沈む教室に、先生の朗読の声が拡散する風景を思い出す。原詩は半分も聞き取ることができなかったけれど、“nothing more 、evermore 、nevermore”と、手巻き時計の秒針のように、規則的に繰り返される語感が気持ちよくて、うたた寝ばかりしていたような気がする。

Tell me what thy lordly name is on the Night's Plutonian shore!'
Quoth the raven, `Nevermore.'
夜の、冥府の磯でお前の立派な名前は何と呼ばれるか
大鴉はいらえた、「Nevermore――またとない。」

 鴉に対して真剣に自分の希望を語り、すべて「またとない」と言われる失恋男の詩。詩なのに物語のようで、長いあいだ印象に残る作品。

 「アナベル・リイ」にしてもそうだけど、ポーの詩は、なんというかこう、「去った恋愛への男の浪漫」みたいなものがある。 初恋の人が死んで嘆くところとか、鴉に「あの人にまた会えるのか?」とか聞いちゃうところとか、思い出を美化して宝箱にしまっておく感じ。いろいろな時代の小説家に愛されるのも、分かる気がする。

Bird or beast above the sculptured bust above his chamber door,
With such name as `Nevermore.'
その部屋の戸の上に刻まれた胸像の上に、鳥か獣か
その名を聞けば「Nevermore――もう二度と」

訳はいろいろあるが、岩波には原詩がついているのでおすすめ。新潮の方が手に入りやすい。表紙がいかものなところと、あとがきが古すぎるのが問題だが。上記訳は新潮版の引用、ちょっと手を加えているところもあり。




recommend:
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>大江健三郎『臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ』

英語の原文はこちら→The Raven