キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『死んでいる』 ジム・クレイス

[死の向こう]
Jim Crace BEING DEAD , 2000.

死んでいる (白水uブックス―海外小説の誘惑)

死んでいる (白水uブックス―海外小説の誘惑)

 死の向こうには、何が待っているだろうか。 英国の無神論者作家が描く、死にまつわる物語。

 この物語はちょっと変わっている。 主人公の動物学者夫婦は、物語のはじめから死んでいて、最後まで死んでいる。しかも彼らは殺されているのにも関わらず、犯人探しとか、残された家族の悲しみとか、ありきたりな方向へちっとも進んでいかない。

 死体は一週間近く放置され、自然の掟のままに食われて腐敗していく。 なかなかシュールな描写なので、食事中には読まない方がおすすめ。(死体はおうおうにして食べ物にたとえられる)

 天国も地獄も煉獄も、輪廻転生も永劫回帰もなんにもない。身体は自然物として土に還って、生きている者には死体と彼らの記憶だけが残される。それでも絶望感があまりないと思うのは、「死のその先」ではなく、「死」そのものに救いを求めているからではないかと思う。

 読んでいて、インドのガンジス河での葬式や鳥葬を思い出した。目の当たりにした時、ぎくりとするものがあったのを覚えている。仏教やキリスト教以外の宗教の死生観に、自分がいかに無意識に慣れているかを突きつけられた瞬間だった。死は常に生きている者に対して、語られるのだなあと。

 「無神論」=「無宗教」ではないな、としみじみと思った。西洋のものなのにキリスト教らしさがない、「死」の物語。なかなかにおもしろかった。


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