読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『聖なる酔っぱらいの伝説』ヨーゼフ・ロート

[輝くその一瞬を]
Joseph Roth Die Legende vom heiligen Trinker , 1939.

聖なる酔っぱらいの伝説 (白水Uブックス)

聖なる酔っぱらいの伝説 (白水Uブックス)

 多言語、多民族の辺境の地に生まれた、ユダヤ系作家による酔っぱらい伝説。

 映画にもなった本作は、その名のとおり、貧乏な宿なしの酔っぱらいが、数々の奇跡に見舞われて、人生の最後を飾る話。 物語の中にしかないような数々の幸運、そして最後に幕は閉じる。

 ハッピーエンドなのかどうか、感動する物語かどうかと言えば、それはわからない。 だけど、読後感のすっきりさは、ひさしく体験しなかったものだった。 ここまで毒気のない物語には、ひさしぶりに出会ったように思う。

 人間生きていれば、人生中に一度くらいは、物語として語りたくなるような輝く一瞬がある。 パリの宿無しのおじさんの、そんな輝かしい一瞬を描いた物語。


 作品だけを見れば、ずいぶんと明るい話のように思えるが、作者の身の上と時代を考えると、なかなかに考えるものがある。

 作者ロートは、オーストリアの作家に分類されるが、生まれた土地は、ロシアと現ウクライナの国境付近にある東ガリシア地方。この地方はウィーン文化圏だが、住んでいる人々はポーランド人、ウクライナ人が多数派という、なかなかに複雑な場所らしい。世界大戦の時代と土地のドイツ系ユダヤ人、つまりはぐれ者。

 へたをすれば、単なるご都合主義のつまらない話になりかねないと思うのに、なんでか好感が持てる不思議な話。平和な時代には悲劇が、むごい時代には喜劇が愛される。本書は私が思うよりずっと真剣な意味で、「夢物語」なのだろうと思う。


追記:
 ちなみに、昔は「酔いどれ聖伝」という邦題だったらしい。これだと、いきなりカンフーみたいになるなあ。


recommend:
カフカカフカ短編集』 (同時代の作家)