キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『憑かれた旅人』バリー・ユアグロー

[憑かれ疲れ]
Barry Yourgrau HAUNTED TRAVELLER , 1999.

憑かれた旅人

憑かれた旅人

「聞きたいわけないでしょ・・・孤独な根無し草の男が、へんてこな、大方は無駄に過ごした生涯に、あれこれの災難に巻き込まれた話なんて!」
さよう、かなりの物事が、その一言に要約されていることは認めざるをえない。


 アフリカ生まれ、アメリカ育ちの「超」短編作家による、原稿2,3枚ほどの旅の断片が、積もりに積もって、ある男の人生を物語る本。
 ユアグローの本は、本屋でぱらぱらとめくるだけで彼の世界にひたれるところがおもしろい。「ケータイ・ストーリーズ」や「一人の男が飛行機から飛び降りる」など、奇妙にシュールで時にぐさりと刺さるユーモアがある。

 根無し草の男の旅の話について。あちこちを旅するそれぞれの話には、連続性がまるでない。舞台はどこかで聞いたことのあるような、ないような、異国情緒に彩られていた匿名の国々。


 この本のおもしろいところは、そんなファンタジーのような世界をうろつきながらも、根無し草の旅人の自尊心と劣等感、人との親密なようでいて浅い付き合い方が、妙にリアルであるところかもしれない。 バックパッカー経験のある人は、この奇妙な感覚に、少なからず覚えがあることだろう。 作中で、男も言っている。「あなたの姿を語っているんです」と。

 きちんと生活をしている兄弟の元から逃げ出す「訪問」、旅の物語の最中であるのに、いきなり作者の影らしきものが登場して、「そんなまやかしではなく本当の自分について書け」と文句をつけてくる「邪魔」など、旅物語の本音がかいま見える文章が挿入されているところがおもしろい。 特に「邪魔」は、小説の中で、こんな邪魔な文章はかつてあっただろうかと、妙に感心してしまった。


 しかしずいぶんシュールな話だった。「深夜特急」を読んでバックパッカーになる人はそろそろ減ったにしても、外国で出会うバックパッカーは、本当に作中の男のようなしゃべり方をする。自慢話、どこに行ったのか、何をしたのか、どんなピンチを潜り抜けたのか。一瞬はおもしろいんだけど、やがてうんざりするこの感覚を、ブラック・ユーモアとして笑った作品は、今のところこれが一番かと思う。

 「つかれた」は、日本語では「疲れた:tired」と「憑かれた:haunted」があると、翻訳者が作者に伝えたところ、彼はそれは喜んだらしい。
 塵も積もれば、塵の山となる。男の人生は、まさにそんな感じである。


recommend:
recommend:
V.S.ナイポール『ある放浪者の半生』 (根無し草の旅路)
リチャード・ブローディガン『芝生の復讐』 (超短篇が積もる)