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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『ブッキッシュな世界像』池澤夏樹

[世界文学と日本人]

ブッキッシュな世界像 (白水Uブックス―エッセイの小径)

ブッキッシュな世界像 (白水Uブックス―エッセイの小径)


 海外文学読みにとって、池澤夏樹はなじみの深い日本人作家であると思う。「考える人」でも特集が組まれていたし、河出書房からも池澤夏樹個人編集の「世界文学全集」が着々と刊行されている。
 いつかどこかで、必ずお目にかかるお人。あとがきなどで彼の名を見ると、「やあ、なっちゃん」と思わず口に出してしまったり。

 本書は、1980年代から1990年代にかけて、著者が書いたコラムをまとめたもの。世紀末のことなんか書かれていたりして、今見るとけっこうおもしろい。文学について、都市について、アメリカについて。テーマはフレキシブル、その中にドッグイヤーのように文学の話がはさまれるような本。

 「ぼくはずいぶん長い間、世界文学というものの信仰者だったように思う」とあとがきは語る。彼の海外文学ジャンキーぷりは有名で、本書を読んでいてもそれはよく分かる。マルケス、ピンチョンあたりは、今でこそ翻訳書が出ているが、昔はそんなものはなく、だいたいを原書か英語訳で読んでいたようだ。そう思うと、今の私たちは本当に恵まれている。

 海外文学のコア読者は、日本全国で3000人と言われている。(30万でも3万でもなく3千!)こんな辺境言語、少数読者で、これだけ地道に翻訳が出ているのはめずらしいことだし、ありがたい限り。一方で、海外文学がもっと注目されればいいのになあとも思う。

 とはいえ、本当は本は原書で読みたいところ。(英語以外は生まれ変わらない限り無理だとは思うが)この「少しでも多くの物語を読むぞ」衝動がおさまったら、いつか。いつか…


追記:
 なっちゃんについて。池澤夏樹の世界文学好きが嵩じてできた作品が、『マシアス・ギリの失脚』 (新潮社、1996年)。ラテンアメリカ文学をもじった、和製・世界のしかけの話。マルケスとかを読んだあとだと、どうしても見劣りはするが、「日本文学」ではなく、「世界の中の日本文学」をめざそうとした氏の心はよかったのでは。

 個人的には、池澤夏樹の小説で好きなのは、やっぱり処女作『スティル・ライフ』。趣味で写真をやっているものだから、スライドをまわすシーンはなかなか染みた。


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