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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『イラクサ』アリス・マンロー

カナダ文学 ☆☆☆☆

[日常の分岐点]
Arice Manro Hateship,Friendship,Courtship,Loveship,Marriage , 2001.

イラクサ (新潮クレスト・ブックス)

イラクサ (新潮クレスト・ブックス)


 カナダを代表する作家による、短篇小説。アリス・マンローは「短篇小説の女王」と呼ばれて、タイム誌でおなじみの「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれている(ちなみに2008年の1位はダライ・ラマ)。

 本書は、彼女が70歳の時に発表されたもの。おふくろの味が自分のつくるものと一味違うように、この物語もほかの作家とはなにか一味違う、「深い味」のようなものがある。

 アリス・マンローは"The point of no return"、人生の分岐点、決定的瞬間を描くことがとてもうまい。幸せな新婚生活が、ケーキの行方不明というごく小さな出来事で、なにかがズレる。 しかもそうした瞬間は、他の人には決して分からないような一瞬に、ごくごくありきたりな日常の出来事の中に起こる。 何も変わっていないように思えるのだけれど、それまでとは何かが決定的に変わってしまった、という感じに。

 時間軸が10年単位であちこち飛ぶものだから、最初はそのテンポにとまどうけれど、そのうち長編映画でも見ている気分になってくる。 一文一文が、手のひらにじわりとくる重さを持っている。

 好きな思った作品は、物語としておもしろい「恋占い」、情景描写が美しい「浮橋」、最後の一文に収束する「クイーニー」

 多くの短編作家は人生の一瞬を切り取るが、アリス・マンローの作品には、人生を眺める大きな時間軸がある。 短編なのに、長編映画を見た心地になれる、希有な短編集。


reccomend:
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rate:☆☆☆☆