キリキリソテーにうってつけの日

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『審判』フランツ・カフカ

[なにかが根本的におかしいはずなのに]
Franz Kafka DER PROZEß ,1925.

審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)

審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)

 
 平凡なサラリーマンのKが、なぜか裁判に巻きこまれ、何の裁判かも分からないまま、次第に追いつめられていく話。

 この小説には、全体を通して形の見えない、しかしとてつもなく大きく見える不安がある。 なにかが根本的におかしくて、不安はどんどん大きくなっていくのに、いっこうにその正体がつかめない。

 道端で出会った人が、自分の名前を知っていて、自分が裁判にかけられていることも知っている。 そんな状況は、普通に考えて明らかにおかしい。 しかし、おかしいことが説明もなしに続いていくと、だんだんそれに慣れて受け入れ、疑問に思わなくなってしまう。飲み込んでいく、考えられなくさせる。それがじつに怖い。

 さて、人を裁くのはルールだが、ではそのルールは何に従うべきか?神にしろ、法にしろ、人が従うべきとされるものがある。では、その神や法の正しさを証明するものはなにか。つきつめていくと、実はけっこう、政治や立法などの本質的な問題にぶちあたる。

 本作もまた、同じ問題を問いかける。Kを犠牲にした「裁判」、行われた「審判」は正しいものだったのか?


 読んでいて、アリ地獄を眺めていた幼少の記憶を思い出した。深みにはまっていく様子を、目を離すこともできないまま、じっと見つめ続ける。結末は分かっている、でも目が離せない。本書も、まさにそんな感じで読んだ。残酷な好奇心からなのか、なんなのか、それはわからないままだが。

 結末が、あまりにも結末すぎて、呆然とする。「呆然小説」というジャンルがあったら、まず定番になるだろう一冊。


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