『イザベルに ある曼荼羅』アントニオ・タブッキ
死とは曲がり道なのです、死ぬことはみえなくなるだけのことなのです。
アントニオ・タブッキ『イザベルに ある曼荼羅』
後悔という不治の病
この世で生きることはあみだくじのようなもので、わたしたちはおびただしい選択をくりかえしながら、人生という不可逆の線上を走っている。
右か左か、寝るか起きるか、魚料理か肉料理か、笑うか怒るか、こんばんはかさようならか、この手を取るか取らないか。ほとんど無意識のうちに、わたしたちは息を吸うごとになにかを選び、なにかを捨てている。
岐路は目の前にあるときは岐路とわからず、通りすぎてしばらくして肩越しに振り返り、それと気づく。「あの時ああしていれば」という思いを人はを「悔恨」と呼び、アントニオ・タブッキは「帯状疱疹」と書いた。これは、「なにもかも帯状疱疹のせいだ」と書き残して死んだ男の、病と治癒の物語である。
「わたしはよく、こんな風に思うのです。帯状疱疹というのは、どこか悔恨の気持ちに似ているとね。わたしたちのなかで眠っていたものが、ある日にわかに目をさまし、わたしたちを責めさいなむ。そして、わたしたちがそれを手なずけるすべを身につけることによって、ふたたび眠りにつく。でも、けっしてわたしたちのなかから去ることはない」 アントニオ・タブッキ『レクイエム』
- 作者: アントニオタブッキ,和田忠彦
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/03/25
- メディア: 単行本
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