ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

なぜ世界文学は売れないのか? もうすぐ絶滅するという海外文学について

世界文学が読まれない、売れない、翻訳できない

 『絶望名人カフカの人生論』の著者、頭木弘樹さん(@kafka_kashiragi)が「海外文学の翻訳が売れないから、翻訳できなくなってきている」というつぶやきが3000RTを超えた。
https://twitter.com/kafka_kashiragi/status/534536316197679104:title#怖ろしい話を聞いた…。海外文学の翻訳は、初版1500部とか、初版印税ナシが普通になってきているという。増刷はなかなかされないだろうから、初版印税ナシだと、実質、無報酬に。初版1500部でも、生活はとてもできない。これでは翻訳をする人はいなくなってしまう。したくても生活できない。

 「印税と翻訳料の違い」(わたしの周囲は若手が多いためか無報酬の話が多く、あっても微々たるものだろうが)や「業界全体の話なのかどうか」「そもそも本当の話なのか」など考えることはあるが、なにがすごいかといえば、このつぶやきが3000RTを超えたということである。

 3000といえばおなじみのフレーズ「海外文学のコア読者は3000人」の3000だ。3000人のうち全員がTwitterをやっているはずはない(特に文学おじさんはやらなさそう)から、わたしの周囲以外でこのつぶやきが拡散されたということは、コア読者以外がなんとなく興味を持ってRTしたと仮定してよさそうだ。

海外文学が消滅する!? - Togetter
※「海外文学の翻訳」関連のつぶやきは6ツイートある。

海外文学にほんのり興味がある人はそれなりにいる

 くしくも昨日「ガイブン初心者にオススメする海外文学・文庫編」という記事を書いたところ、2000PV・70ブクマ超えを記録した。この記事を書いていて思った、そしてブクマのコメントなどを読んで感じたのは「海外文学に興味がほんのりある人は意外にいるんじゃないの?」ということだ。ためしに書いてみたら、やっぱりそれなりにいる気がする。
ガイブン初心者にオススメする海外文学・文庫編 - ボヘミアの海岸線

 そもそもこの記事は、「リクエストをもらったらそれっぽい海外文学を1冊オススメする」企画を開催したとき、リクエストをくれた人たちのうち半数ぐらいが「ふだんはあまり海外文学を読まない人」だったために書いた。わたしのTwitterアカウントはほぼ海外文学ネタと2.5次元の幻覚しかたれ流していないにもかかわらず、なぜか2000フォロワー以上いて、ここ1年はとくにフォロワーの増えるスピードが加速している。

 また、ノルウェー・ブック・クラブがまとめた「世界最高の小説100」リストは2000近くのブックマークがついている。リストはブクマをかせぎやすく、だいたい「あとで読む」タグがついてあとで読まれないものだが、それにしてもこのブクマ数はわたしにとっては驚きだった。
サービス終了のお知らせ - NAVER まとめ
 人々は「海外文学」を読みたいわけじゃない。「いい作品」「読んでよかったと思える作品」「最高の作品」を求めているのだ。物語に貪欲な人は、フォーマットは問わない(好き嫌いや相性はあるにせよ)。映画でも、アニメでも、ゲームでも、漫画でも、アマチュアがつくった動画でも、文学でも。残念なことに、文学はこの中ではもっとも敗北している。海外文学はもはや、表マーケットで経済活動を続けるか、アマチュアや海賊版翻訳に頼る裏マーケットになるか、という選択肢を突きつけられつつあるとすら思っている。

 本記事は「表マーケットでの経済活動」にポイントをしぼって話を進める。つまり問いはシンプルだ。「なぜ海外文学は売れないのか?」「なぜ海外文学を買わないのか?」

 なお、わたしは仕事上では文学にまったく縁がない分野に生息しているため、これはあくまで外部から見たうえでの話である(ただコンテンツ畑なので、コンテンツのシェア獲得とマーケティング、課金は永遠のテーマだ)。ガイブン業界の慣習やしがらみは抜きにして、話を進めることをご了承いただきたい。

なぜ海外文学は売れないのか?


 なぜ海外文学は売れないのか? 答えは単純で「既存マーケットでは経済活動を維持するのに十分ではない」、つまり「新規マーケットをじゅうぶんに獲得できていない」からだ。

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