ボヘミアの海岸線

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『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ

「白人ときたら、まったくずる賢いやつらだよ。宗教をひっさげて、静かに、平和的にやって来た。われわれはあのまぬけっぷりを見ておもしろがり、ここにいるのを許可してやった。しかしいまじゃ、同胞をかっさらわれ、もはやひとつに結束できない。白人はわれわれを固く結びつけていたものにナイフを入れ、一族はばらばらになってしまった」——チヌア・アチェベ『崩れゆく絆』

弱さを認めぬ弱さ

 支柱が折れて瓦解する教会のまんなかで、降りそそぐ瓦礫の雨を2本の腕で支えようとした男がいた。

 時は19世紀、植民地支配前夜のナイジェリア。オコンクウォは、架空のアフリカ部族社会“ウムオフィア”(アチェベの出身地ナイジェリアの最大部族、イボ族の習慣をもとにしている)で最強の戦士として認められていた。稼ぐことも戦うこともできず、音楽を愛して借金まみれで死んだ父のようになることを病的に恐れ、父が愛したもの、音楽や感情、優しさを、軟弱で女々しいものとして、ことごとく憎んだ。

崩れゆく絆 (光文社古典新訳文庫)

崩れゆく絆 (光文社古典新訳文庫)

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