キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

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『事の次第』サミュエル・ベケット

聞いたとおりにわたしは語るそれから死もし死がいつかは来るものならそれでかたづく死んでいく——サミュエル・ベケット『事の次第』 狂人の脊髄 これは奇書ですよ、といって手渡された。 一時期、探しまわっていたのだが、あまりに見つからないので、わたしの…

『ジョン王』ウィリアム・シェイクスピア

王 このように太陽が天に輝き、この世の楽しみが、 いたるところに目につく誇らしげな真昼間は、 あまりにも浮き浮きし、あまりにもけばけばしくて、 どうも話がしにくい。—ーウィリアム・シェイクスピア『ジョン王』 揺れる王 ジョン王(1167-1216)は、イ…

『アテネのタイモン』ウィリアム・シェイクスピア

偉大なタイモンだ、高潔、高尚、高貴なタイモン公だ! だが、ああ、そのようなほめことばを買う金がなくなると ほめことばを言う声もなくなってしまうのです。 ごちそうの切れ目が縁の切れ目、冬の氷雨が降りはじめると 青蠅どもは身をかくすのです。——ウィ…

『チェスの話 ツヴァイク短篇選』シュテファン・ツヴァイク

あらゆる種類のモノマニア的な、ただひとつの観念に凝り固まってしまった人間は、これまでずっと私の興味をそそってきた。人間は限定されればされるほど一方では無限のものに近づくからである。――シュテファン・ツヴァイク「チェスの話」 ささやかで重大な災…

『無慈悲な昼食』エベリオ・ロセーロ

“彼らは僕を昼食と見なしている”——エベリオ・ロセーロ『無慈悲な昼食』 獣になる ふしぎなものだ、「慈悲の昼食」という名がこれほど無慈悲に響くとは。 原題は"Los almuerzos"、「昼食」というとおり、木曜日の正午12時から金曜日までの12時までの1日を描く…

『地図集』董啓章

さらに過激な議論もあり……この理論によれば、地図上のすべての場所は取替地であり、どんな場所もかつてはそれ自身ではなかったし、永遠に別の場所に取り替えられるのである。――董啓章「地図集」 地図は小説 『千と千尋の神隠し』で、湯婆婆(ゆばーば)は千…

『ヘンリー六世』ウィリアム・シェイクスピア

ああ、栄華も権勢も、しょせんは土と埃にすぎぬのか? 人間、どう生きようと、結局は死なねばならぬのか?——ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー六世』 足を踏みならして貴族と王族が輪になって踊っている。それは権力争いの踊りで、踊り手は増えては消え…

『ペインテッド・バード』イェジー・コシンスキ

ぼくは神の御子を殺したことの償いのためにこんなにたくさんのユダヤ人の命がはたして必要なのだろうかと思った。この世界はやがて、ひとを焼くための、ひとつの大きな火葬場になるだろう。司祭さんだって、すべては滅び、「灰から灰に」帰する運命にあると…

『他人まかせの自伝――あとづけの詩学』アントニオ・タブッキ

運転手は親切に聞いてくれました。どちらへお連れしましょうか。ある物語から抜け出したいのです。わたしは混乱しつつ、つぶやきました。行き先はどこでもいい、物語から逃げ出す手助けをしていただければ。わたしが作りだした物語ですが、今はそこから抜け…

『遠い水平線』アントニオ・タブッキ

「どうして、彼のことを知りたいのですか」 「むこうは死んだのに、こっちは生きてるからです」——アントニオ・タブッキ『遠い水平線』 目の中に水平線 見知らぬ人が死んでいる。今もどこかで、近くの路地で、遠い部屋の片隅で。だが、死はふだんの生活からは…

『ラテンアメリカ五人集』

<ちんこ>、君、ターザンになったな、一日一日、いい身体になって行くみたいだぜ、とぼくらはいったものだった。ーーバルガス・リョサ「子犬たち」 cinco autores ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)作者: M バルガス=リョサ,シルビーナオカンポ,M.A.アスト…

『パラケルススの薔薇』ホルヘ・ルイス・ボルヘス

「一輪の薔薇は、あっけなく燃え尽きるはずです」と弟子は挑むように言った。 「暖炉にまだ火が残っている」とパラケルススは応じた。 「この薔薇を火中に投ずれば、それは燃え尽きたと、灰こそ真実だと、おまえは信じるだろう。だが、よいか、薔薇は永遠の…

『ナボコフのドン・キホーテ講義』ウラジミール・ナボコフ

『ドン・キホーテ』はこれまで書かれた中で最高の小説だと呼ばれてきた。もちろん、これはナンセンスだ。事実は、世界中の最大傑作の一つでさえないのだ。——ウラジミール・ナボコフ『ナボコフのドン・キホーテ講義』 ナボコフ先生は猥雑なものがお嫌い どこ…

『黄色い街』ベーツァ・カネッティ

まったく奇妙な界隈である、この黄色い街というところは。不具者や、夢遊病者や、狂人や、絶望した者や、人生に飽きあきした人間がひしめいている。——ベーツァ・カネッティ『黄色い街』 沈黙の激情 ベーツァ・カネッティは、ブルガリア生まれのノーベル賞作…

『聴く女』トーベ・ヤンソン

寒さと暗さに守られているほうが互いをやりすごしやすい。いまは立ちどまって春ですねと話しあう。そのうち寄ってよとわたしは言う。もとより本気ではない。――トーベ・ヤンソン「春について」 吐く息は白い 今年の冬は長かったように記憶している。冬が長け…

『ユビュ王』アルフレッド・ジャリ

ユビュ親父 そうかも知れん。だがわしは政府を変えちまったし、今後はすべての税金を二倍にふやし、指定された者はとくに三倍の税金を支払うよう、官報で通告したのじゃ。かかる方法によって、わしは速やかに大金持ちとなり、かくしてありとあらゆる者を皆殺…

『ブルターニュ幻想民話集』アナトール・ル=ブラーズ

プレスタンに住んでいた老人が、ある盤、ドゥーロン川の土手で一人の女と出会いました。お女は土手に腰かけ、川を見つめていました。過疎の村ランムールを去ってラニオンへ行く途中でした。 女は、「ねえ、おじいさん! 私を型に乗せてこの川を渡していただ…

『オスカー・ワオの短くも凄まじい人生』ジュノ・ディアス

髪を切って、メガネを外して、運動しなさい。エロ本を捨てなさい。あれは最悪よ。ママも嫌がってるし、あんなもの見てたら彼女なんてできない。——ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短くも凄まじい人生』 君はヒーロー 百貫デブで重度のオタク、年齢=彼女…

『脱獄計画』アドルフォ ビオイ・カサレス

今からわたしは、科学者であることをやめて、科学のテーマの一つになる。今からはもはや苦痛を感じず、ブラームスの第四交響曲第一楽章の最初のモチーフに(永遠に)耳を澄ますことになるのだ。——アドルフォ ビオイ・カサレス『脱獄計画』 島という牢獄 共感…

『移民たち』W.G.ゼーバルト

――彼らはこうやって還ってくるのだ、死者たちは。——W.G.ゼーバルト『移民たち』 死者の記憶 低くささやくような声で、4人の移民たちの人生が語られる。ドクター・ヘンリー・セルウィン、パウル・ベライター、アンブロース・アーデルヴァルト、マックス・アウ…

『魔の山』トーマス・マン

私たちの時を測る針は、時計の秒針のようにせわしなく動いていくが、それが冷淡に休みなく頂点を通過していくとき、そこに流れすぎていく時間の意味は誰にもわからないのである。——トーマス・マン『魔の山』 浮世離れ 冬なので寒い本を読もう企画。私はこの…

『緑の家』マリオ・バルガス・リョサ

「密林はたしかに美しい。むこうのことはすっかり忘れてしまったが、あの色だけは今でもはっきりと憶えているよ、ハープを緑色に塗ってあるのは、そのせいなんだよ」——マリオ・バルガス・リョサ『緑の家』 ざわめく密林 2010年にノーベル文学賞を受賞したバ…

『わたしたちが正しい場所に花は咲かない』アモス・オズ

狂信主義はイスラームより、キリスト教より、ユダヤ教より古い。どんな国や政府よりも古いし、どんな政治形態、どんなイデオロギーや信念よりも古くからこの世にあります。悲しいかな、狂信主義は人間の本性につねに備わっている成分、いわば悪い遺伝子なの…

『冬物語』ウィリアム・シェイクスピア

[その名を時という] William Sharekspeare The Winter's Tale,1611? 冬物語 シェイクスピア全集 〔35〕 白水Uブックス作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/01メディア: 新書購入: 1人 クリック: 5回この商品を…

『ハイファに戻って・太陽の男たち』ガッサン・カナファーニー

[砂と血にかき消えた祖国] Ghassan Kanafani a'id ila Hayfa 1970.Rijal Fi-sh-shams,1963. ハイファに戻って/太陽の男たち作者: ガッサーンカナファーニー,黒田寿郎,奴田原睦明出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2009/02/19メディア: 単行本購入: 1…

『オラクル・ナイト』ポール・オースター

[啓示は手の中に] Paul Auster The Oracle Night,2003.オラクル・ナイト作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/09メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 50回この商品を含むブログ (40件) を見る とにかくあのノ…

『赤い高粱』莫言

[赤が泣く] Mo Yan 紅高粱家族 Hong GaoLiang JiaZu,1987. 赤い高粱 (岩波現代文庫)作者: 莫言,井口晃出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/12/17メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 54回この商品を含むブログ (22件) を見る 万物はすべて、人の血のにお…

『アントニーとクレオパトラ』ウィリアム・シェイクスピア

[折れ剣の英雄] William Sharekspeare Antony and Cleopatra,1606-07. アントニーとクレオパトラ シェイクスピア全集 〔30〕 白水Uブックス作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/01メディア: 新書 クリック: 2回…

『砂の都』マルセル・ブリヨン

[砂に埋もれた記憶] Marcel Brion La Ville de sable,1976. 砂の都作者: マルセルブリヨン,Marcel Brion,村上光彦出版社/メーカー: 未知谷発売日: 2007/04メディア: 単行本 クリック: 16回この商品を含むブログ (4件) を見る わたし自身、母岩から砂を払い…

『ぼくには数字が風景に見える』ダニエル・タメット

[世界は数字] Daniel Tammet Born on a Blue Day,2006. ぼくには数字が風景に見える作者: ダニエル・タメット,古屋美登里出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/06/13メディア: 単行本購入: 22人 クリック: 223回この商品を含むブログ (157件) を見る 理系…